第27話

「何しにきたんや? 白石、ワシは呼んどらんで?」


 車を降りた岩島さんが、立ち止まって腕につけているシルバーの時計を見ていた白石さんに問う。


「自惚れはやめていただけますか? 俺はオヤジに会いに来たのではなく、沙羅に会いに来ただけですよ」


 腕時計から岩島さんに視線を移した白石さんは、ハッキリと言い返す。相も変わらず、無表情で。


「私に?」


 私が車から降りて聞き返すと、白石さんは溜め息を吐いて、


「厚意を抱いている相手に逢いに来るのに、理由なんていらないだろ」


 恥ずかしげもなく言う彼に対し、私が恥ずかしくなる。けれど、逢いに来たと言われて悪い気はせず、頬が熱くなるのを感じる。


「お前、恥ずかしくないんか?」


 私の気持ちを代弁するかのように岩島さんが言うと、愚問だと強い風が吹いた。生ぬるい風は、一つに束ねた長い髪を揺らして肌を撫でる。


「恥ずかしい? 想いは伝えないと伝わらないのでは?

 まあ、オヤジは行動で語るような人間なので、俺の気持ちは理解出来ないことでしょう。物を壊したり暴れたりすることがオヤジ流の“想いを伝える”なら、俺はある意味感心しますけどね」


 フンと鼻を鳴らした白石さんは、挑発的な目で岩島さんを見ている。

 はあ、と岩島さんは間抜けな声を出して、


「お前、何言うてんねや? ワシがなんでんかんでん暴力振るう男みたいやないかい」

「実際そうでしょう? オヤジは暴力しか振るわないんですから。所謂、脳筋男ですよ」

「ほたら、お前は嫌味しか言わへん根性曲がりやさかい、性悪男でええやん」

「時間の無駄です。俺が性格も良いのは誰もが分かることでは?」

「なんで、虚言吐いとんねん。逆やで? お前はどう考えても、性悪やろ。ワシが女やったら、お前みたいな男絶対に結婚相手に選ばんわ。

 人生終わるの目に見えとるやん」

「オヤジが魅力的な女だったとしても、能無しのオヤジを選ぶような男は存在しないでしょう。顔が良くても性格の悪い人間は、選ばれないかと」

「そら、お前やろ。お前、自分で自分のこと言うとるで?

 せやのに、気付かんって……お前こそ、脳がないとちゃうん?」


 岩島さんが言い返すと、白石さんは鼻を鳴らして笑い、


「ああ、そうですね。脳がない人間は、相手に優れた能力があるのかどうかさえ見抜けない。

 ご自身が魅力的で能力の高い人間だと思い込むのは勝手ですが、他人を卑下する発言をするのはどうかと」

「せやから、それがお前なんやて。お前、さっきからワシを卑下しまくりやで」

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