第25話

「知っとるわ、アホ。ワシはシャレ言うとっただけやで?

 せやのに、詐欺ですって、ホンマしらけんねん」


 福井さんがわざわざ説明してくれたのにもかかわらず、岩島さんはその厚意を平気で打ち壊す。本人はおもしろいつもりだったのかもしれないが、仕事をしている身からすると不快で。

 岩島さんへの好感度が、徐々に下がっていく。


「は、はあ?」

 

 福井さんは、困ったような戸惑ったような顔をしていて。「すみません」と私が謝ると、彼は「大丈夫です」と笑って許してくれた。

 福井さんに対して罪悪感が湧き、岩島さんに対して腹が立ち。

 横目で岩島さんを睨むと、彼はわけが分からないと眉を顰める。

 昼の休憩時間になり、会社を出てコンビニへ向かっている最中。車が公道を走りゆく中、隣を歩く岩島さんが頻りに話しかけてくる。

 けれど、私はそれを無視して無言で歩く。


「何で無視してん? ワシ、なんかしたか?」


 本気でわからないのか。はたまた、いつもの冗談なのか。その真意は分からないが、しつこく話しかけられると話してしまいそうになる。

 それをぐっと堪えて無視し続けると、彼の声色は次第に低くなり。怒りを含み、口調が強くなる。


「ええ加減にせえよ! ワシが何した言うんや?

 ホンマ、強情な女やな!」


 岩島さんに怒鳴られ、私も堪忍袋の尾が切れ。鬱憤を打つけるかの如く、私は口を開く。


「いい加減にするのは、辰さんの方ですよ! さっきから、自分のことばっかり。

 福井さんに悪いって思わないんですか?」

「はあ? なんでや?」

「本当に分からないんですか? だったら、最低ですよ!」


 私がハッキリ言い返すと、岩島さんは立ち止まり、

 

「お前、何で福井っちゅう奴を庇うんや? 好きなんか?」


 こちらを指差して怒鳴るものだから、近くの建物に居た人が、窓から此方の様子を覗っている。

 なぜ、そういった考えしか浮かばないのか。岩島さんのことを大人とばかり思っていたが、なんだか彼が子供じみて見える。


「好きとかではなく、辰さんの言動は人として最低だって言ってるんです!」

「何言うてんねん! シャレ言うとっただけやのに、詐欺詐欺騒ぐあいつが悪いんやろが!」


 私達の喧嘩はもはや怒鳴り合いのオンパレード。立ち止まって怒鳴り合う私達を、近所にいる人達どころか車に乗っている人達でさえ見ている。

 一度文句を言いだしたら止まらず、もはや悪口の言い合いで。彼が魅力的な男性だったかどうかさえ、全く分からなくなってくる。

 ただ一つ言えることは、岩島さんは暴力的な人間なのに、私に一切暴力を振るってこようとしないということ。文句は言えど、彼はビンタ一つしてこない。

 恭宏は違った。文句を言えばビンタや蹴りなどの暴力が日常茶飯事。だから、それが当たり前だと思っていた私は、岩島さんに対し少し驚いている。

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