第22話
「施設に帰すで」
しかし、彼の一言で淡い期待は崩れ。なぜ、どうしてが頭の中でグルグルと
「帰すって、陸斗君が――」
「確かにお前の言う通り、一般的に見てかわいそうなことかもしれへん。せやけど、ワシは橋本と同じ意見や」
「何でですか? 私ちゃんと面倒見ます!」
私がハッキリ言い返すと、岩島さんはまた溜め息を吐いた。そして、彼は話を続ける。
「面倒見る言うてるけど、陸斗はペットとちゃうんやで? ほんで、未成年の陸斗を施設に無断で連れ回してみい。お前が豚箱行きや。刑務所行かへんとしても、お前に傷がつくんやで?
お前が良くても、六代目はそれを許さん。陸斗はどう転んでも、結果的にかわいそうな目に遭うことになる。
それなら、今は施設に帰しとった方が幸せやろ」
岩島さんはそこまで言うと、運転席側の扉を開けた。
彼の目は、いつになく真剣で。いつものような、冗談を言っているようには見えない。それに、彼の話には説得力があり、頷く他なかった。
「分かったら、早う乗れ」
今の岩島さんには逆らえず。また、陸斗君の将来まで考えていた彼に頭が上がらず。彼の言う通り、車に乗り込む。
「俺は先に行ってますよ」
「ああ。ワシも送ったらすぐに行くさかい、城山に伝えれや」
「はい」
岩島さんが車に乗り込むと、橋本さんが返事をする声が聞こえ。珍しく、彼は岩島さんに逆らわなかった。
そして、扉は閉められ、車は再び走り出す。
リズムの良い音楽が流れる中、私は岩島さんを見て口を開く。
「……私、先のことを考えずに、かわいそうってだけで陸斗君を預かろうとしてました。でも、それじゃダメなんですよね」
「だめってわけじゃあらへん。せやけど、感情だけで育てるんには、リスクが高すぎんねん。それに、責任が伴わんしな」
と返事をした彼は、また煙草を吸い始めた。
ゆらゆら立ち上る白煙は、窓の外へと吸い込まれていき。臭いだけを残し、なぜか彼がいるという安心感をくれる。
無責任な自分の発言を悔い、それは新たな学びとなり。普段は不真面目な岩島さんから学ぶものは、これまでも多くある。
やはり、そんな彼は魅力的で。何も学べない北城さんとは対照的な人間。世間的には同じ悪でも、全く違う。
そんな素敵な岩島さんが気になり、運転中の彼をチラチラと見ていると。一瞬だけ、彼と目が合った。
「何や? 何か文句あるんかい」
「ありません。それに、勘違いしないでください。私は窓の外を見ていただけです」
「はあ? 意味がわからへん。ワシのほう見よったやんか」
「見てません。あなたの勘違いです」
私が言い返すと、岩島さんは訳が分からないと眉を顰める。
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