第11話

何か話そうかと思ったが、思うだけで話せず。時間は刻々と過ぎていき、短くなった煙草はいつの間にか灰皿の中で眠り。

 夜である上に疲れていることも相まってか、視界は徐々に狭くなり。やがて、記憶が途絶えた。



 夢を見た。本当かどうかもわからない、冬の日の夢。

 私は小学生になりたてくらいの子供で、岩島さんは成人したてくらいの青年で。

 空から深々と雪が降り、日本家屋の庭は白銀の雪で覆われている。


「明日は雪だるま作れる?」


 寒い寒い縁側に座って、真っ暗な空を見つめ。赤くなりつつあるてのひらに息を吹きかけて聞くと、隣の岩島さんも空を見上げ、


「雪だるまどころか、かまくらも作れんで?」


 にっと笑う彼は、私の頭を豪快に撫で。そして、互いの温もりを確かめるかのように、彼は私を抱きしめ。

 笑顔で岩島さんを見つめていると、彼はなぜかキョロキョロと辺りを見渡し、


「沙羅ちゃんは大人になったら、誰と結婚するんや?」

「けっこんって?」

「好きな相手とずっと一緒になることや」


 結婚の意味を簡単に説明されて、私は迷わず、


「お父さん!」


と答えると、岩島さんは何故か溜息を吐き、


「親父さんとは結婚できひん」

「そうなの? それなら、ゆう君」

「誰やそれ?」


 岩島さんが知らない名前の子のことを私が話すと、彼は眉を顰めて、


「そらアカン。そいつは沙羅ちゃんを誑しとる悪い男やで?」


 何故か否定され、何故か誑かされていると言われ。その意味もわからず首を傾げていると、


「沙羅ちゃんの事を一番に想うてくれとる相手が、すぐ側におるやんか」

「えー、誰?」

「ここに居るで」

「どこ?」


 キョロキョロと辺りを見渡しても、いるのは岩島さんだけ。不思議に思って岩島さんを見ると、彼は顔を近付けて来ている。

 その意味も、言葉の意味も。幼い私は分からず、ただそれを見ている他ない。


「それを続けたら、お前は海に沈められることになるそ?」


 すると、後ろから声がして。振り向けば、岩島さんと同じ年くらいの城山さんが立っていて。背の高い彼は少し離れた所からこちらを見下ろしている。


「……ええとこやったのに、邪魔すんなや」

「何が良いところだ。お前がやっていることは、犯罪に近いぞ?」


 不貞腐れる岩島さんに対し、城山さんはハッキリと言い返し。そして、私達の隣へ座る。


「はんざいって?」


 その意味を城山さんに聞くと、彼は口元を緩めて微笑み、


「沙羅ちゃんは、知らなくていいことだよ」


と言って、彼は私の頭を撫でる。


「なんで、辰彦お兄ちゃんを怒ったの? 何もしてないよ」

「ああ、何もしていないね」


 私が聞くと、城山さんは頷いて答える。

 すると、岩島さんはニヤリと怪しく笑い、


「そうやで、ワシはまだ何もしとらん」


と言って、私の頭に顔を近付けてキスを落とす。


「お前、歳を考えてみろ。十三も違う女の子相手に、何を考えているんだ?」


 信じられないと、城山さんが呆れたように岩島さんを見ている中、今度は頬にキスをし、


「今の時代、年の差婚が流行ってんのやで? 知らんのか?」

「だとしても、相手は小学生だぞ?」

「せやかて、この子もいつかは大人になる」

「だから何だ? 今している行為となんの関係がある?」


 岩島さんは溜息を吐いて、


「お前は仕事言うて女に興味があらへんさかい、ワシの気持ちが分からへんわなあ。

 ワシは心の底から沙羅ちゃんを愛しとる。愛に歳は関係あらへん」

「……お前は、幼児が好みなのか?」


 驚いた顔で城山さんが聞き返すと、岩島さんは頭を振って、


「ちゃうわ。ワシはこの子と居る時がいっちゃん落ち着くねん」


と、彼はまた私の頭にキスを落とす。

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