第10話

エンジンを掛け、シフトレバーなどを操作して車が動き始めた。岩島さんは車を素早く後退させた後、シフトレバーを操作して車を前進させる。颯爽と走る車は、マンションの駐車場を出て公道へ。住宅街を抜けて開けた道へと出る。

 スピーカーから流れるヒップホップ系の音楽。香りの良い香水は心を落ち着かせ、街中に溢れている色とりどりの明かりは、雰囲気作りには欠かせないもの。

 魅力であふれている車内で、良い雰囲気に浸っていると、


「ちゅうか、お前はワシの息子でヒイヒイ鳴いとったらええねん」 


 岩島さんは、下品という名の凶器で全てを打ち壊す。

 ガクッと落ちていく、岩島さんに対する評価。男は下半身で動くなどという笑い話を聞いたことがあるが、実際そうなのかもしれない。

 それに言っていることは、やはりおじさん臭く。年の差を感じずにはいられない。


「ごめんなさい、和真の部屋に戻ります」

「はあ? お前何言うてんねん。さっき白石に襲われとった言うんに、戻りますって正気か?」

「だって、辰さんって私の身体目当てじゃないですか」


 思っていることを全部早口で言うと、岩島さんは眉を顰めて、


「アホなこと抜かすな。身体目当てなら、とっくに捨ててんで? ほんで、命賭けて守ったりなんかせえへん」

「じゃあ、何で下品なこと言うんですか?」

「なにが、下品なことや。ワシは、ありのままで接しとるだけやで? それにコマするんは子孫残すためには必要なことやろが」


 恥ずかしいことやあらへん。そう話を続けた岩島さんは、涼しい顔で運転をしている。

 片手でハンドルを握る彼は、箱から取り出した煙草を咥え。煙草の先端にジッポーの火を充てがう。

 火がつくと、白い煙は車内に充満。岩島さんが少し窓を開けると、白い煙は窓の外へと逃げていく。


「でも……む、息子っていう言い方、なんかおじさん臭いです」


 私は消え入りそうな声で返事をした。直接ではないにしろ、間接的に下半身の話をするのは恥ずかしく。そして、視線は無意識に岩島さんの方へ向いてしまう。

 欲求が溜まりすぎているのか、疲れすぎているのか。今日の私は何か変で。


「ほたら、なんて呼べばええんねや?」

「その話する必要あるんですか?」


 私が聞き返すと、岩島さんは煙とともに間抜けな声を出して、


「お前が言い出したんやで? せやのに……ああ、もうええわ」


と、岩島さんは煙草の灰を灰皿に落として、再びそれを咥える。

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