第8話
けれど、これは岩島さんに対する裏切り行為。罪悪感が沸き立ち、次第に白石さんのことが受け入れられず。
「――やっぱり出来ません!」
と白石さんの手を押し返す。
白石さんは突然の抵抗に戸惑い、少し動揺しているように見える。けれど、彼は微かに笑み、
「分かった」
と、私のわがままを許してくれた。
私の上から降りた白石さんは、こちらを見つめ。上体を起こした私も、彼を見つめる。
白石さんに対しても、酷いことをしてしまった。期待させるような素振りをしつつ、平気で裏切る。その最低な行為は許されることではない。
「すみません、私……」
好きかどうかも分からない状態で、岩島さんが好きだとも言えず。ただ俯き、罪の意識に苛まれるばかり。
「俺の方こそ悪かった。一人で思い上がり、お前の気持ちも確かめずに先走ってしまって。
でも、俺はお前に受け入れられてもらえる日が来ると、これからも信じている。その為にはどんな努力もする」
白石さんはそこまで言うと小さく呼吸をし、再び口を開く。
「受け入れられるその日が来たら、俺の全てを受け入れてくれますか?」
白石さんを見ると、真剣な眼差しを向けていて。それは、冗談を言っているようにも見えず。彼は、普段の私に接する口調とは真逆の話し方をしていて。その言葉は胸に響き、私は微笑みを浮かべて、
「はい」
と笑顔で答えた。
私に釣られたのか、白石さんも優しい笑みを浮かべている。
穏やかで、落ち着いた時間はゆっくりと過ぎていく。――はずだった。
突然開く扉。壊れてしまうのではないかと思うほど、それは激しい。
「ああ、ここに居ったか! 二人っきりなんかにさせられるかい!」
開いた扉の向こうに立つ岩島さんは、こちらを指差して叫ぶ。すると、私達の姿を見た彼は更に憤慨し、
「白石、やっぱり沙羅に手を出しとったな?」
と、怒鳴り散らす。
白石さんは溜め息を吐いて、
「まだ出せていませんが? それに、沙羅は誰のものでもない今、オヤジに責められる謂れはありません」
ハッキリと物申した白石さんは、睨むように岩島さんを見ていて。岩島さんも、白石さんを睨んでいる。
「そうやとしても、今日はワシの家に連れて帰る。文句は言わさへん」
「勝手にしてください。ですが、俺は絶対に諦めませんよ?」
岩島さんは暫く白石さんを睨んでいたが、急にこちらを見て、
「早う来い」
と命令し、戸惑って動かない私の手首を掴んだ。
半ば強引に私をベッドから下ろした岩島さんは、私の手を強く引き寝室から出て行く。そして、マンションから出て、駐車場にある岩島さんの車へ向かう途中、彼は振り向かずに、
「なんぼ精神年齢が低い言うても、男の家にノコノコと一人で行きよってからに。アホか、お前は」
文句を言う岩島さんの背中は怒りに満ちていて、右手は握り拳を作ってワナワナと震えている。
「だったら、辰さんの家にもいけないじゃないですか」
「だって、男だから」と話を続けると、彼は立ち止まった。そして、勢いよく振り向き、
「ワシはええねん! お前にとって、ワシは特別な存在やろが!」
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