第5話

「そうですね」


 二人を見ている白石さんは穏やかで。理沙さんがなくなったのは嘘だった、そう錯覚してしまいそうだ。

 火葬場には似つかないほど和やか雰囲気が漂う中、微かに聞こえてくる銃声。音がする方を見ると、ソファーに座る橋本さんの姿が。

スマホの画面を見ている彼は、コロコロと表情を変え、見ている者を飽きさせない。

 岩島さん達が談笑している中。私の隣にあるソファーに座った白石さんが、橋本さんを横目で見て、


「こんな所でもゲームが出来るお前の神経を疑いたくなるんだが?」

「あ? 別に待ち時間なんやき良かろうが」


 邪魔をするなと、橋本さんが白石さんを睨む。すると、銃声はさらに激しくなり、本物と見分けがつかない。


「見た目だけ大きくなった子供だから仕方ないか。それなのに、幸せにするなどとよく言えたもんだな。恥を晒しているだけだから諦めろ」


 フンと鼻を鳴らした白石さんは通常運行。彼の口からは出るのは、いつもの嫌味。


「ゲームとそれが何の関係があるんかちゃ?」

「お前にとって、パートナーよりもゲームの方が優先順位が上なんだろ?

 だったら、夫婦生活なんて向いていない。一生独り身でいろ」


 はあ、と橋本さんは間抜けな声を出して、


「そんなん言ってなかろうが。大体、上やったとしても、好きであることには変わりないんたい」

「それじゃ夫婦生活なんて上手くいかん」


 橋本さんが言い返した直後、孝之さんが口を挟む。すると、岩島さんがまたかと溜め息を吐いた。


「優先順位は、嫁、嫁、嫁、嫁やないと上手くいかん」

「全部嫁やないかい。お前、どんだけ愛妻家やねん。

 ホンマ、話聞くだけで身体が痒なってくんで」


 岩島さんが合いの手を入れると、孝之さんは得意げな顔で話を続ける。


「当たり前やろ、俺は心の底から小百合を愛しとる。小百合から死ね言われても、笑って抱きしめられるくらいに」

「それでええんか? お前、嫁から死ね言われとるんやで? そんなん、夫婦生活破綻しとるやんか」

「私がそんなこと孝之に言うわけないんよ。辰兄、話を捏造せんで」


と小百合さんが口を出すと、眉を顰めた岩島さんは彼女を見て、


「いや、孝之が言ってんねんで? 話を捏造しとるんは、どう考えてもお前らやろ」


 話すと疲れると、溜め息を吐いた岩島さんは目を閉じて狸寝入りを始めた。ソファーに肘をついて目を閉じている彼は、いびきを掻く振りをしている。

 岩島さんの逆隣にいる城山さんは、少し冷めたお茶を一口飲んで、


「夫婦円満なのは構わんが、子供のことも考えるべきだ」


 彼の視線の先には、先程の少年がいて。離れたソファーに座っている彼は、黒い前髪を弄りながら暇そうにスマホを眺めている。


直貴なおたかはいつもああなの。でも、私達を理解してるんよ」


と小百合さんは言っているが、話が聞こえたのであろう直貴君はこちらを睨んでいる。あからさまに嫌そうにしている彼は、ふざけるなと言って、


「毎回毎回、好きだの愛してるだの気持ち悪い。理解なんかしてねえし、お前らなんか早く死ねよ」


と、彼は小百合さんに向けて中指を突き立てた。

 すると、先程とは一変し、孝之さんは顔を顰めて、


「お前、誰にそげん口利きようとか! ああ?」


 直貴君に凄む彼は、怒鳴り声を上げた。

 皆が直貴君を見ている中、彼は孝之さんを睨み、


「は? 分からんの? お前たい、お前」


 フンと鼻を鳴らした直貴君は、「うぜえ」と語尾に言葉を添える。

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