第3話

葬式が始まっても隣の岩島さんは橋本さんを睨んでいたが、橋本さんはそれに反して涼しい顔をしている。

 そんなことより、気になっているのは白石さんのこと。葬儀の最中も俯いたままで、棺桶に花を添える際も常に無表情。何を考えているのかさえ分からない。

 逆にそれが恐かった。普段の彼よりも、ずっと何倍も。

 葬儀が終わった後、火葬場の待合室で待っている最中。離れた所に居た白石さんは、突然ソファーから立ち上がりこちらに向かって歩き始めた。そして、私たちの側で立ち止まり、静かに口を開く。


「俺は復讐なんてしません」


 突拍子もないことを言う白石さんに、岩島さんは手に持っていた湯呑みをズボンの上へ落とした。 


「――熱っ! いきなり何やねん。お前、塞ぎ込んどったんとちゃうんか?」


 慌てて湯呑みを手に取った彼は、拭くものを貸せと城山さんに命令している。

 呆れ顔の城山さんがティッシュを岩島さんに渡している中、白石さんは話を続ける。


「塞ぎ込む? そんなわけ無いでしょう。特別、理沙に対して良い思い出はないので。ただ、幼少期に共に生活したので、血縁として葬儀くらいはやろうかと」

「じゃあ、何でずっと黙っとたんや? それやったら、黙る必要あらへんやろ」

「俺は考えていたんですよ、この先どう動くべきかと。残念なオヤジとは違い、俺は考える時は黙るタイプですので」

「なんや、ワシがいつも喋りすぎとるみたいな言い方やないかい」


 岩島さんは城山さんから受け取ったティッシュでスーツの染みを拭いつつ、横目で白石さんを睨む。

 白石さんは彼を見ずに、こちらを見て、


「結果、派手に動かない方がいいと結論づき、俺は可哀想な親族を演じていました。

 初めはこの手で理沙を殺してしまったことを悔やみました。ですが、考えてみれば俺は家族に対し何の感情も持っていません。そもそも、北城の女に成り下がり、俺を殺そうと企んでいた理沙に対し感情移入すらできない」


 彼はそこまで言うと、小さく息を吐いて話を続ける。


「殺して正解だったんです。理沙が生きていたら、沙羅に危険が及ぶ可能性が高い」

「ホンマ、恐ろしい男やで。

 実の妹が亡くなった言うんに、殺して正解やった言うとるわ。お前、ホンマに人間か?」


 岩島さんが問うと、なぜか白石さんは口を閉ざした。 

 元々静かだった辺りが、さらに静かになり。微かに話し声が聞こえる。

 すると、白石さんはまた息を吐き、再び口を開く。


「俺が命をかけて守ると決めたのは理沙のためじゃない、沙羅のため。だから、沙羅を守るためなら理沙の死は致し方なかったとしか」

「回りくどい言い方すんなや、ハッキリ言え」


 痺れを切らした岩島さんがズバリと言うと、白石さんは彼を見て、


「オヤジと共に生きて後悔はしていないということです」

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