第2話
「あのおっちゃんが来とらんかったら、こうはならんかった」
私の隣に立った岩島さんが、部屋を見渡して口を開いた。静かに立っている彼の瞳は微かに揺れていて、後悔しているように見える。
責めるべきなのは彼ではなく、私の方。あの時、私が余計なことを話さなければ、理沙さんは死なずに済んだはず。
全ては私のせい。白石さんに責められても、返す言葉が見つからない。
やはり、私はこの世界にいてはいけない存在なのかもしれない。
「……私が死ねば良かったんですよね」
小さく呟いたつもりだったが、部屋中の視線を一気に集めた。おじさんも例外ではなく、悲しみに満ちた目でこちらを見ている。
「アホ抜かすな。悪いのは全部北城やろが。せやのに、自分を責めるゆうんは、ただの逃げやで?」
はっきりと岩島さんに言われ、悲しみの感情が溢れかえり。涙が込み上げ、目から溢れ落ちる。
泣きたいのは、白石さんの方。それでも泣く私は、ただの狡い女。私が死んだ所で何も変わらない、そんなこと分かっていたはずなのに。
「死ねば良いとは誰も思っちょらん。生きて幸せになってほしいと、俺は思っちょる」
理沙さんの遺影を見つめていると、橋本さんの話し声が聞こえた。彼は、私の肩に手を置いて話を続ける。
「本音は俺が幸せにしてやりたいんやけど、出来るか分からん。でも、生き残れたら絶対に幸せにしちゃる」
と言われ、無意識に橋本さんの胸の中で私は泣いた。すると、彼は慰めるように私の頭を優しく撫でる。
「……それ、ワシが言うセリフやったのに、美味しいとこ全部金魚の糞が持っていきよったで。
アホな顔しとるのに、何が“幸せにしちゃる”や。ほんま、こいつど突き回したろか?」
岩島さんが何か文句を言っているが、私はただ泣くばかり。どれほど、橋本さんの胸の中で泣いていたか分からない。
「辰さん……私、絶対に幸せになります」
橋本さんから離れた後、涙をハンカチで拭いながら言うと、
「なんや、橋本の嫁になるような言い方やけど、ワシは絶対に認めへんで? お前は黙ってワシについてきたらええねん」
なぜか岩島さんは文句を言っている。そんなつもりではないと否定したが、彼の口から出るのは「そんなつもりやろ」と文句ばかり。
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