第十四章 家族
第1話
あれから、数日が経った。今日は、亡くなった理沙さんの葬儀が執り行われている。
けれど、参列者は四人だけ。親族の席には一人しかいない。
人が亡くなったというのに、空席は埋まらず。彼女の両親すら姿を現さない。
親族の席に座っている白石さんは、あの日から一言も言葉を話さず。まるで魂が抜けてしまったかのように、ボーッとしている。
「沙羅ちゃん」
そんな時、葬儀場に姿を現したのは亮平おじさんだ。黒いスーツを着ているおじさんは受付に香典を置き、名前を書いている。
不思議だった。香典の袋に書かれた名前は、片桐ではなく中原。名は『
なぜ、どうしてが頭に浮かび、おじさんに問いたくても口が動かない。黙っておじさんを見ていると、私の隣に立っている岩島さんがこちらを見て、
「どないしたんや? ボーっとしとるで?」
と、私に問う。
珍しく黒いスーツを来ている彼は、不思議そうに私を見ている。聞いて良いのか迷った挙げ句、私は口を開いた。
「中原秀平って誰ですか?」
「誰って、お前の親父やろが。何言うてんねん」
岩島さんは当たり前のように言ったが、私は激しく混乱している。
「でも、あの人は片桐亮平ですよね?」
「そら、仮の名前やろ。葬式に偽名はアカンしな」
「じゃあ、片桐亮平じゃないんですか?」
「せやから、中原秀平やってジブンが言うとったやんか」
訳が分からないと岩島さんは眉を顰めているが、私自身も訳が分からない。
亮平おじさんは、お父さんだけどおじさんで。亮平おじさんは、おじさんだけどお父さん。
頭が酷く混乱し、気分が悪くなる。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
外から建物内に入ってきた城山さんがこちらを見ている。続けて入ってきた橋本さんは、眉を顰めて、
「悪いもんでも食べたんやないん?」
と聞いてくる。
私は頭を振って、
「お父さんが、中原秀平なんです!」
私が早口で言うと、城山さんと橋本さんは顔を見合わせて、
「なんで今さらそんなこと言うんかちゃ。当たり前やろ」
と、橋本さんは呆れ顔でこちらを見ている。
城山さんは溜め息を吐いて、
「偽名は礼儀に反するからな」
「ワシも言うたんやで? せやのに、まだ“片桐亮平じゃないんですか”って言うねん。
ワシのが頭痛いで。アカン、気分悪なってきた。沙羅、キスしてくれへん?」
私は、こちらに顔を近付けて来る岩島さんの足をヒールで踏みつけ、
「こんな時に、何を言っているんですか? 不謹慎ですよ、不謹慎。
和真の気持ちを考えてください」
と、私は彼を横目で睨む。
岩島さんは足を押さえて、
「何すんねん! ワシは、場を和ませるためにシャレ言うたんだけやろが!」
と声を荒げたが、私はそれを無視して会場の中へ入る。
先程まで人がいなかったというのに、亮平おじさんが来た途端、次々と人が会場の中へと入ってくる。あっという間に席は埋まり、会場は強面の男性でいっぱいだ。
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