第11話

白石さんがそんな風に思っていたなんて意外だった。

 今までの白石さんなら、絶対に言わない言葉。仲間意識が高まった彼の心情の変化に、私は嬉しく思う。

 私は助手席に乗り込み、


「わたしも、白石さんと同じです。不潔とかは違いますけど、仲間思いの良い人だと思ってます」


と、笑顔で答える。

 橋本さんは目をしばしばさせて、


「ふーん、そっか」


 そう言った橋本さんは、どこか嬉しそうだ。表情には出さないものの、陽気な声で分かる。

 車が動き始めた。明るい音楽が流れる中、運転中の白石さんがそっと口を開く。


「逆に聞くが、俺のイメージはなんだ?」

「嫌われ者、根性曲がり、完璧主義。そんで、嫌味を言うのは、寂しさを紛らわすため。根は良い奴だと思う」


と答えた橋本さんがニッと笑う。

 「嫌味を言うのは、寂しさを紛らわすため」、そう言われると納得できる。


「俺は良い奴なんかじゃない」


 白石さんはハッキリと言ったが、今なら彼は良い人だと私は言える。


「和真さんは感情を表に出すのが苦手で、それを隠すために嫌味を言っているんだと思います。

 今までは怖い人だと思っていました。けれど、本当は優しくて他人想いの良い人だと知って、私はそんな和真さんが好きになりました」

「は?」


 話の途中で、白石さんと橋本さんが同時に間抜けな声を出した。白石さんは、心なしか嬉しそうだ。


「橋本さんも、最初は嫌な人だと思ってました。けれど、一緒に過ごしていく内に、優しくて仲間思いの良い人だと分かりました。

 だから、橋本さんも好きです」

「は?」


 二人が、また間抜けな声を出した。そして、二人は顔を見合わせて溜め息を吐く。


「どっちが好きなんだ?」


と、白石さんに聞かれたので「二人とも」と答えると、また二人は溜め息を吐いた。

 私は、白石さんも橋本さんも好きだ。それは、恋愛感情ではなく、人として。それなのに、なぜ溜め息を吐かれるのか理解できなった。もしかすると、私は二人に嫌われているのかもしれない。


「俺はお前が好きだ」


 何を思ったのか、白石さんがハッキリと言った。

 すると、目の前の信号は赤に変わり、車は横断歩道の手前で止まった。

 こうもハッキリと言われると、どう返事をしたら良いのか分からない。

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