第12話

結局、返事はしなかった。

 白石さんも白石さんで、何事もなかったかのように運転しているし、橋本さんはスマホゲームに夢中になっている。

 それに、今はそんなことなど考えている場合ではない。何せ、グォンさんに会っても岩島さん達が助かるとは限らない。その確率は低いと言えるだろう。

 どうしたものか、遠くの木々を睨んでいると、突然鞄の中のスマホが震え始めた。私は、鞄からスマホを取り出して画面を見る。

 表示されているのは、知らない番号。セキュリティが登録なしと示している中、危険も省みずに電話に出た。


「もしもし」


 恐る恐る声を出すと、息を吐く音が受話口から聞こえてきた。そして、それに続くように物音がした。


「岩島はもうすぐいなくなる。それに、城山も」


 電話の主は北城さんだった。彼の声はどこか嬉しそうで、生き生きとしている。

 「誰だ?」と、白石さんが声を出さずに聞いてくる。「北城さん」と、声を出さずに返事をすると、白石さんは「スピーカーにしろ」と声を出さずに指示。私はすぐにスピーカーのボタンを押した。


「邪魔者がいなくなって嬉しいだろ?」


 北城さんのねっとりとした声は車内に響いている。すると、橋本さんが身震いした。


「嬉しくありません。警察とグルになって、岩島さん達を罠に嵌めたのはあなたでしょう?」


 私がハッキリ言うと、何かが割れたような音がした。そして、北城さんはクックッと喉を鳴らして笑いながら、


「罠に嵌めた? 何のことだ? あいつらが勝手に自滅しただけだろう?

 俺はなにもしていないし、俺は悪くない。悪いのは、俺からお前を奪った岩島あいつの方だ。違うか?」

「違います。岩島さんは、今も昔も私を守ってくれているんですから」


と、言い返した瞬間、また物が割れる音がした。


「岩島がお前を守った? ふざけるな! 守っているのは俺の方だ!」


 北城さんはワンワン吠える吠える。彼の怒鳴り声は鼓膜を破ってしまいそうだ。


「妄想もここまでくると痛いな。そろそろ病院へ行ったらどうだ? お前には妄想癖がある」


 ずっと黙っていた白石さんが口を開いた。彼は北城さんを挑発するかのように、フンと鼻を鳴らしている。


「男と一緒にいるのかああああ! 俺以外の男と、また寝るつもりかああああ!」


 北城さんが、また怒鳴った。彼は興奮しているらしく、何を言っているのかさっぱり分からない。

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