第10話
「うん、お前は気にすんなちゃ」
と、橋本さんは笑顔で言っているが、目は笑っていない。彼は白石さんを睨んでいる。
「まさか、回転寿司で四万もいくとはな」
フンと鼻を鳴らした白石さんは、涼しい顔で口を開いた。
その瞬間、橋本さんが言い返す。
「お前はありがとうぐらい言えちゃ! 高いもんばっか食い過ぎなんたい!」
「だから、何だ? たかだか四万くらいで文句を言うな」
「なら、今度はお前が奢れよ? そんで、高いもんばっか食っちゃる」
白石さんは、また鼻を鳴らして、
「勝手にしろ」
と、彼は言っているか、流石に四万は高すぎる。やはり、自分もいくらか出すべきだった。
「あの、半分出しましょうか?」
申し訳なく思い、そう申し出ると、橋本さんは眉間に皺を寄せて、
「だき、気にせんで良いっちいいよろ?」
「でも、流石に四万は出しすぎですよ」
「……俺が金無いように見える?」
と聞かれて返事に困った。
失礼な話、橋本さんはだらしないイメージがある。お金関係は特に。万年金欠だと彼に言われても何ら驚きはしない。
返事をせずに渋い顔をしていると、橋本さんも渋い顔で、
「言うちょくけど、俺はちゃんと金の管理はしようし、無駄遣いはせんばい」
「城山組長に管理してもらっているんじゃないのか?」
白石さんが嫌味たらしく聞くと、「違う」と橋本さんは怒鳴って、
「俺は家事やら勉強は苦手やけど、金だけはちゃんと管理しちょんたい。見た目がこんなんやき誤解されやすいけど、人に金借りたりしたことない。
貸す時も、やるつもりで貸しようし」
と熱弁している彼は、周りの人の注目を浴びている。
冷たい風が吹いた。どこからか、揚げ物の匂いがする。
白石さんは溜め息を吐いて、
「お前の銭勘定などどうでもいい。そんなの、出来て当たり前のことだろ?」
白石さんが車を開けようとすると、鍵が開く音がした。そして、彼は扉を開け、運転席に乗り込む。
「出来ない方がどうかしている」
と言った彼は、車のエンジンを掛けた。
「そら、そうやけど」
後部座席に乗り込んだ橋本さんは、何か言いたそうにしている。
「何だ? まだ、何かあるのか?」
「……俺ってさ、どんなイメージ持たれてるわけ?」
と、橋本さんが聞くと、白石さんは振り向かずに、
「だらしない、不潔。それに、無神経」
ズバスバと物を言う白石さんは遠慮することを知らない。
はあ、と溜め息を吐いた白石さんは、
「だが、仲間思いの良い奴だ」
と言って、微かに口元を緩めた。
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