第9話
黙って橋本さんと同じ座席に座ると、白石さんと目が合った。彼は何か言いたそうにしていたが、何も言わずにレーンからハマチが乗った皿を取っている。
「ここは俺が払うき、遠慮せんで食え」
と言った橋本さんが、海老と鯛を手に取った。どちらも、黒い皿に乗っている。黒い皿は三百円の皿だ。
「え? 自分で払うんで大丈夫です」
「俺が払うっち言いよんやき、ありがとうっち言っちょけばいいんたい」
どこかで聞いたことのある台詞。私は岩島さんとラーメンを食べた時のことを思い出し、思わず笑ってしまいそうになった。
「そうか、ありがとう」
白石さんが、タッチパネルを押して注文し始めた。よく見れば、どれも高い物ばかりだ。
「お前は少し遠慮しろ」
「ありがとうと言ってやったんだから、遠慮する必要はないはずだが?」
「はいはい、そうですね」
橋本さんもタッチパネルを操作して注文し始めた。彼もまた、高い物ばかり注文している。
そして、いつの間にかテーブルの上は絵皿ばかり。絵皿は六百円だ。
二人とも張り合っているのか、絵皿しか頼んでいない。
「これ、どうするんですか?」
明らかに食べきれない量の寿司達を前に、半ば苛立ちながら聞くと、
「食べるに決まっているだろ?」
「食うに決まっちょうやろ?」
と、二人は同時に答えた。
すると、絵皿の上の寿司が見る見る無くなっていく。食べた量も競い合っているのか、二人は手を止めない。
見ているだけでお腹いっぱいになる。けれど、それが楽しいと思ってしまう自分がいる。
そういえば、岩島さんは今頃どうしているだろうか。彼のことを思い出すと胸が痛む。
しかし、二人はそんなことなど気にしてる素振りすら見せず、黙々と食事をしている。
結局、三人で七十皿以上も食べた。料金は四万五千六百二十円。当然周りの人の視線を集めてしまったし、お腹は膨れすぎてこれ以上何も食べれない。
「ごちそうさまでした。ありがとうございます」
店の外へ出た後、私は橋本さんの目を見て礼を述べる。
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