第7話
「そこまで言うんだったら会ってくればいい。但し、変な真似はするな」
高峰さんはハッキリ言うと、近くにあったメモ用紙にボールペンで何かを書き始めた。そして、彼はメモ用紙から紙を一枚破ると、椅子から立ち上がり、
「グォンさんの居場所はすぐには分からないが、そこへ行けば居るかもしれない」
と、白石さんに紙を手渡す。
「これは?」
それを受け取った白石さんが問う。すると、高峰さんはガシガシと頭を掻いて、
「ヨウシンがある場所たい。
……いいか? 絶対に変な真似するなよ?」
と、念を押すように言った。
「橋本、お前は明日来なくていい」
帰りの車の中、白石さんがルームミラーを見ながら口を開く。
スピーカーから流れてくる歌は穏やかなのに、車内に漂う雰囲気は重々しい。
「何でかちゃ。俺も行くに決まっちょうやろが」
橋本さんは力強い声で言い返す。いつもなら、スマホでゲームをしている彼だが、今はしていない。
すると、前の軽自動車が急ブレーキをかけた。その瞬間、白石さんは私を庇うように左手を出し、咄嗟にブレーキを踏み込む。
当たるか当たらないか、ギリギリの所で止まる車。身体が微かに揺れた。
白石さんがクラクションを鳴らした。すると、逃げるように軽自動車が走り出す。かと思いきや、また車は停車。走っては止まってを繰り返す軽自動車は、白石さんを煽っているようにしか見えない。
無言の白石さんは、何をされても無反応。黙々と運転している彼は、怒鳴ることすらしない。
逆にそれが怖かった。何を考えているか分からない彼は、遠くを見つめている。
今走っているのは三車線の道路。真ん中を独占している軽自動車は、他にも車が走っているのにもかかわらず、蛇行運転を繰り返している。
すると、白石さんが右のバックミラーを見て後ろを見た。そして、彼は右のウインカーを上げて車線変更。だが、軽自動車も同じ車線へ。
目の前には交差点。信号は青。白石さんは左のバックミラーを見て、左のウインカーを上げた。そして、走る車線を左へ変更。
軽自動車は右折車線にいる上、前に車があるため、曲がるに曲がれない。
交差点に入ると、信号が黄色になった。軽自動車は、もう追って来れない。
どうやら、上手く撒けたようだ。
それでも、白石さんは無表情。やはり、何を考えているのか分からない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます