第6話

「で、何しに来た? 俺に用があるっちゃろ?」


 再びソファーへ腰掛けた高峰さんが、缶コーヒーの蓋を開けて問う。そして、彼は水のようにコーヒーを飲み始めた。

 ゴクゴクと喉が鳴る音が聞こえる中、白石さんが口を開く。


「グォンという韓国人を明日までに捜し出して頂きたい」

「グォン? どこかで聞いた名前だな。ちょっと待ってろ」


 高峰さんがソファーから立ち上がった。そして、彼はパソコンが置いてあるデスクの方へと歩いていく。

 デスクの前の椅子に腰掛けた高峰さんは、パソコンを素早く操作し始めた。

 速い。彼の動きには無駄ひとつない。


「……そいつには関わらない方がいい」


 高峰さんがポツリと呟く。


「なぜです? 奴はヨウシンという貿易会社を経営しているだけでしょう?」

「無知ほど恐ろしいものはないな」


 白石さんが聞くと、高峰さんがフンと鼻を鳴らしてまた呟く。すると、白石さんの眉間が微かに動いた。


「マフィアだと言いたいんですか?」

「ただのマフィアじゃない。金のためならなんでもやる、過激派マフィアだ。

 グォンさんに関われば、消されるぞ? それも、最初から存在しなかったかのようにな」

「戸籍からもですか?」


 白石さんが聞くと、高峰さんはそうだと頷き、


「この世に生まれてこなかったように、生きていた証拠を消される。

 グォンさんは恐ろしい人だ。だから、絶対に関わるな」


 橋本さんの喉がゴクリと音を立てた。

 私は、高峰さんの話を信じられずにいる。グォンさんが、マフィアな訳がない。彼は優しくて良い人だ。


「グォンさんはマフィアなんかじゃありません」


 私がはっきり言うと、高峰さんはこちらを見て口を開く。


「そう思いたい気持ちはわかるけど、それが事実だ」

「それなら、何で岩島さんはグォンさんに会えって言ったんですか?」

「たっさんがそんなことを言ったのか?」


 そう聞き返す高峰さんは驚いた顔をしている。


「城山さんもグォンさんは悪い奴ではないと仰ってました」

「のぶさんまで?」


 高峰さんが信じられないとでも言いたそうな顔をしている。

 外からクラクションの音が聞こえてくる。風で窓が揺れた。


「グォンさんのことなにも知らないくせに、悪く言うのはやめてください!」


 自分でも信じられないほど大きな声が出ていた。

 グォンさんのことを知らないのは自分も同じだというのに、よくもはっきりと言えたものだ。自分でも驚いている。

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