第3話

なぜ駄目なのか、その事ばかり頭に浮かんでいる。どうしようかと考えていると、再び車が動き始めた。


「あの人の所へ行くしかないか」


と、呟いた白石さんが溜め息を吐いた。


「あの人?」


 私が聞き返すと、白石さんはこちらを見ずに口を開く。


「オヤジの知り合いに高峰たかみねという探偵がいるんだ。その探偵はちょっと曲者で、あまり会いたくないんだが……仕方ない」


 白石さんはそこまで言うと、スーツの懐から煙草の箱を取り出した。そして、彼は煙草を口に咥え、オイルライターで火を点ける。

 ユラユラと上がる紫煙。白石さんは少し窓を開け、そこから煙を逃がす。


「沙羅を見つけたのもその探偵だ。その探偵に頼めば、見つからない者も簡単に見つけられる」

「じゃあ、グォンさんも見つけられるんですね?」


 ああ、と白石さんは頷いて、


「だが、時間がない。オヤジ達が検事と会う前に見つけ出さないとならない」

「いつ会うんですか?」

「明日の午後だ。起訴猶予になれば出られるはずだ」


 白石さんがハンドルを左へ切った。すると、車体が左へと曲がっていく。

 タイムリミットは明日の午後。間に合わなければ、拘留期間が延びるだろう。

 そうすると、岩島さん達が不利になるのは明らか。今でも不利だというのに、これ以上なったら助けようがない。


「で、その探偵はどこにおるんかちゃ」

「浅野だ」

「駅の近くか?」

「ああ」


 橋本さんの問いに、白石さんが頷く。

 浅野には毎日のように行っているが、探偵事務所があるようには思えない。

それに、一日でグォンさんを見つけだせるのだろうか。

 不安が不安を呼び、胸が苦しい。岩島さんのことを考えれば考えるほど、心は悲しみに浸る。


「オヤジ達は大丈夫だから心配するな」


 すると、白石さんがポツリと呟く。そして、彼は煙草で口を塞ぎ、ふーっと煙を吹き出す。


「はい」


 白石さんの優しさに触れた瞬間だった。

 それが嬉しくて、私は笑みを溢す。

 一瞬だけ、白石さんの口元が緩んだ。しかし、すぐにいつもの無表情へと戻る。


 数十分後、車は小倉駅の近くにある有料駐車場に着いた。

 空いているのは10番の駐車スペース。白石さんは車を素早く後退させ、その駐車スペースに車を止めた。

 空はもう暗い。それなのに、辺りはネオンの光りで明るく、とても夜だとは思えない。

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