第2話

私が話しかけると、白石さんはこちらを見て答えた。

 橋本さんは、煙草を吹かしながら警察署を睨んでいる。


「ありがとうございます」


 気にするなと白石さんは言って、


「オヤジ達とは会わせてもらえなかった。昨日の今日だからな、無理もない」

「私、行ってきます」

「やめちょけ。誰が行っても同じことたい」


と、橋本さんが吸いかけの煙草を地面に放った。そして、彼は、スニーカーの底で煙草の火を揉み消しながら話を続ける。


「俺達が何言うてもあの警察あほ共は取り合ってくれん。何かあると思うんやけど、それが何なのかが分からん」

「罠に嵌められたとしか言いようがないな。北城からも、警察さつからも」


 白石さんはそこまで話すと、運転席側の扉を開けた。乗れ、と指示する彼は、車に乗り込んでエンジンを掛けている。


「俺達があの場に居らんでよかったっち思う。そうでなかったら、俺等は終わりやった。所謂、ゲームオーバーたい」


 すると、橋本さんが後部座席に乗り込んだ。私も連れて、助手席に乗り込む。


「オヤジ達に何か言われなかったか?」


 助手席側の扉を閉めた後、シートベルトを締めると車が動き始めた。私に質問してくる白石さんは真剣な顔をしている。


「そういえば、もう一度グォンさんに会ってこいと言われました」

「グォン? あの韓国人か?」

「はい」


 目の前の信号が表示している色は赤。車は止まり、目の前の交差点を車達が横切っていく。

 白石さんは何かを考えるように、人差し指でトントンとハンドルを叩いている。


「オヤジ達に会えっち言われたなら、会えばよかろ?」

「だとしても、居場所がわからない。沙羅、連絡先は分かるか?」

「わかりません」


と、答えると、橋本さんが何かを思い出したように「あっ!」と言って、


「お前名刺もらっちょったやん! あれどうしたんか?」

「あれか? もう、捨てた」

「はあ? お前馬鹿やろ?」

「二度と会うことはないと思っていたからな」


 どうしたものかと考えていると、突然亮平おじさんの顔が浮かんだ。そういえば、亮平おじさんならグォンさんの連絡先を知っているかもしれない。


「亮平おじさんなら知っているかもしれません」

「それは駄目だ」


 私が思い出したように話すと、すぐに白石さんが口を出した。

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