第九章 ヨウシン
第1話
「ですから、何度も申しました通り、私達が来た時にはすでに亡くなっていたんです!」
警察署の取り調べ室は窮屈で居心地が悪い。
先程から何度も同じ答えを返しているのに、目の前の男性警察官は同じことを質問してくるばかりだ。
窓から差す明るい光は、朝だと私に知らせている。今何時だろうか。周りに時計がないため分からない。
あれから、すぐに警察署へ連れていかれた。夜も更けていたためか、保護室で寝ることに。しかし、全く眠れずに朝を迎えた。
「
警察官の口振りは、岩島さんが犯人だと決めつけている。確かに、岩島さんは拳銃を持っていたため、疑われても仕方ない。
だが、彼が犯人でないことは分かっていること。だから、私は岩島さんの無実を訴え続ける。
「違います。私は本当のことを言ってるんです」
「嘘を吐くと罪に問われるよ?」
「……それは脅しですか?」
はあ、と警察官は溜め息を吐いて、
「こちらはね、あなたのために言ってるんですよ? 現に被害者はあの男に付きまとわれていたんだ。あなただってそうだろう?」
早く言えと言わんばかりの口調。警察官はボールペンの先で机を叩いている。トントンという音が部屋の中で響く中、刻々と時間だけがすぎていく。
「岩島さんは付きまとってなんかいません。だって、あれは──」
間違えだと言いかけて、私は口を噤んだ。
私が真実を話したところで、警察官は私の話を信じてはくれないだろう。それに、瑠璃さんが嘘を吐いていたという証拠がない。
「あれは?」
警察官は私の話の一部を拾い上げて聞き返す。その威圧的な声は、恐怖心を呼び起こさせる。
「……なんでもありません」
言ってはいけないような気がしてならない。 私は知らぬ存ぜぬを繰り返し、その場をやりきる。
解放されたのは、夕方の事だった。
警察署を出ると、空は赤く染まっていて、鱗のような雲が浮かんでいる。
「沙羅」
警察署の前でそれを眺めていると、誰かが私を呼んだ。
そちらを見れば、白石さんと橋本さんの姿が。黒いレクサスの前に立っている二人は、周囲の人の注目を浴びている。
「和真さん。それに、橋本さんも。こんなところで、どうしたんですか?」
「オヤジの様子を見に来たんだ。それに、お前のことも心配だった」
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