第3話

それから、私達は一番奥の席に向い合わせで座り、浦原さんは女性店員にコーヒーを二つ頼んだ。

 店内はコーヒー豆の香りが漂っている。それに、様々な人がいて、色々なことをしている。例えば、本を読んだり勉強をしたり。落ち着いた店内だからこそできることだ。

 すると、コーヒーが運ばれてきた。浦原さんは白いコーヒーカップを手に取り、コーヒーを一口飲んだ。ブラックのコーヒーを飲むその姿は大人の魅力を感じさせる。


「お話ってなんですか?」


 答えを急ぐのは私の悪い癖だ。しかし、答えが気になってしかたない。

 ああ、と浦原さんは言って、


「岩島とはどういうご関係で?」


と聞き返す浦原さんは、コーヒーカップをソーサーの上に置いた。


「ただの知り合いです」


 私はそう答えると、コーヒーの中に砂糖とミルクを入れた。私は浦原さんのようにブラックは飲めない。コーヒースプーンでコーヒーを軽く混ぜていると、浦原さんは眼鏡を触って、


「本当にただの知り合いですか?」


 意味深な質問をする浦原さんを前に、私は少し動揺している。私は何でもない素振りをみせつつ、コーヒースプーンをソーサーの上に置いた。

 やはり、岩島さんに何かあるのだろうか。私には関係ないはずなのに、胸がドキドキする。

 心の中では葛藤が生じていて、知りたい気持ちと知りたくない気持ちが自己主張している。


「どういう意味ですか?」

「言葉の通りです。あの男に深入りすると大変なことになりますよ」

「大変なこと?」

「まだ、死にたくないでしょう? そういうことです」


 浦原さんがまたコーヒーを飲んだ。


「北城さんに殺されるということですか?」

「何を言っているんです? オヤジはあなたを守ろうとしているだけですが? 本当に危険なのは岩島の方ですよ」


 浦原さんは真剣な顔で私を見ている。

 彼は何を言っているのだろうか。どう考えても危険なのは北城さんの方だ。


「オヤジはあなたを守るために岩島に再三注意してきました。ですが、岩島はあなたから離れようとはしません

 現に、今まで付きまとわれて来たのでしょう?」

「付きまとわれてなんか──」


 いません、と言いかけた瞬間、浦原さんがスーツの懐から何かを取り出した。そして、彼はテーブルの上にそれを置いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る