第2話
無いと言えば嘘になる。だが、仕事中なのにあると言うのも変な話だ。それならば、
「少しだけなら」
と答えるべきだ。
「そうですか。では、行きましょう」
「行くって、どこにですか?」
私が訊くと、浦原さんは口元を綻ばせて、
「話しやすい所ですよ。ここでは、話せないので」
浦原さんの眼鏡が怪しく光った。
浦原さんに付いていくのはあまりにも危険だ。かと言って、訪ねて来た相手が暴力団だということが会社の人に知られてしまえば、また何を言われるか分かったものではない。
危険だと思いつつも、私は浦原さんに付いていくことにした。
「呼び出した俺が言うのもなんですが、お仕事の方は大丈夫ですか?」
街中を歩いている最中、隣にいる浦原さんが口を開いた。横を通り過ぎていく人々が、チラチラとこちらを見ている。
浦原さんは岩島さんと違って暴力団には見えない。彼が暴力団だと名乗らなかったら、一般人の人と間違えるくらいだ。
「大丈夫です。私は会社に居なくてもいい存在なんで」
「居なくてもいい存在? 失礼ですが、何故です?」
卑屈な答えの一部を拾い上げた浦原さんが不思議そうにこちらを見ている。
「失敗ばかり繰り返しているからです」
岩島さんのせいだとは言わなかった。いや、言えなかった。なぜなら、失敗ばかりしているのは事実だからだ。それに、人のせいにはしたくない。
「そのようには見えませんが? 俺はてっきりあの男のせいだと思っていました」
「あの男?」
「岩島ですよ。あの男に関わった女性は──」
浦原さんはそこまで言うと口を閉ざした。彼は、無表情で道の向こうを見つめている。
何かあったのだろうか。話の続きが気になる。
「どうかしました?」
不思議に思って聞くと、ああ、と浦原さんは言って、
「この話は後で」
こちらを見た浦原さんの顔は真剣そのもの。私は早く知りたいと思ったが訊くのをやめた。
岩島さんが何をしてきたのか酷く気になる。どうでもいい、今までの私ならそう思っていたに違いない。
すると、私達はこぢんまりとした喫茶店に入った。その際、彼は出入り口の扉を開けてくれた。
浦原さんは岩島さんと違って紳士的だ。そういった男性は何だか好感が持てる。
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