第2話
「ほんま、久しぶりやなあ! 元気にしとったか!?」
恭宏の知り合いかと思ったが、男性は何故かこちらを見ている。しかし、私は初老くらいのその男性に見覚えはない。
私がじっと見返していると、男性は切り傷の痕がある左目を擦りながら、
「えらいべっぴんさんになってからに……感動の再会や」
感極まった男性は黒い髪を掻き上げて、
「結婚式はいつがええんや? どこで挙げたいんや? 着物がええか? それとも──」
「何を仰っているのか私には理解できません。と言うより、どちら様ですか?」
私が訊き返すと、男性は驚いた顔をして、
「……何言うてんねや? 寝惚けとるんか?」
「寝惚けてません。誰かと間違ってらっしゃるのではないですか?」
「はあ? そんなわけあるかい! ようやっと見つけたゆうんに、わけの分からんこと言うて……ワシを馬鹿にしとるんか?」
と、訊き返してきた男性の表情が一気に変わった。
男性は先ほどまで笑っていたというのに、今は眉間に皺《しわ》を寄せて怒りを顕にしている。明らかに普通の人ではなさそうな風貌の彼は、直ぐにでも殴りかかってきそうだ。
「馬鹿にするも何も、本当に知らないんですから。恭宏の借金の取り立てに来たのであれば、どうぞお帰りくたさい。私には一切関係ありません」
本来なら怖いはずなのに、口が勝手に動いていた。私がはっきりと物を言うものだから、男性は少し驚いた顔をしている。
「今持ち合わせがなくて……」
一方の恭宏はボソボソと独り言のように話していて頼りにならない。金、金、と口にしている彼は、金に取り憑かれているかのようだ。
すると、男性は小さく溜息を吐いて、
「……このワシをそこら辺の小チンピラと一緒にするとは。怒りを通り越して悲しゅうなってきたわ」
悲しげな表情を浮かべる男性の声が微かに震えている。そんな彼を見ていると、何故か胸が痛んだ。
しかし、私には暴力団の知り合いはいない。彼が暴力団かどうかは定かではないが、見た目からして暴力団だろう。たとえ一般人だったとしても、黒いワニ柄のジャケットを着ているせいでとても一般人には見えない。
「ジブン、沙羅《さら》ちゃんやんなあ?」
「……そうですけど」
「名字は中原《なかはら》」
「はい」
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