第28話 魔王城

 魔王討伐の指名依頼をもらった翌日、俺はいつものように唯のキスで目覚めた。


「おはよう、唯。今日から魔王討伐の旅だな」


「うん。魔王をやっつけて、平和な世界を作ろうね」


 特別な朝だけど、俺達に気負いは無い。

 いつもと変わらない唯の笑顔に癒されつつ、いつも通りに朝の準備をする。


 朝食を済ませて身支度を整えていると、宿の部屋のドアがノックされた。


「おはよう、アキラ、ユイ。準備はできてる?」


 ドアを開けると、そこにはソフィアが立っていた。

 そう。今回の魔王討伐にはソフィアも同行することになったのだ。


 昨日、ソフィアは「魔王討伐を見届けるのは王女の責務」とか言ってたけど、普通の王女様はそこまでしないよね?

 支援魔法に期待できるので、俺達としては同行歓迎だけど。


    ◇    ◇    ◇


 俺達は王都を後にし、魔王城に向けて出発した。


 走っての移動ではソフィアがついて来れないので、今回ソフィアは馬で移動することにした。

 馬の走るスピードに合わせて、俺と唯はゆっくりと走る。


 そうして王都から北に向かってしばらく走り続けたところ、破壊された大きな砦が見えてきた。

 北の砦は元々は王国軍の前線基地だったけど、魔王軍に攻め込まれて破壊されてしまった場所だ。

 今は誰もいない、ただの廃墟と化している。


「ひどい有様だな……」


 砦の中に入ると、そこは見るも無残な光景だった。

 建物は破壊し尽くされ、壁や天井は崩れ落ち、瓦礫の山と化している。

 かつて兵士たちが寝泊まりしていたであろう部屋には、壊れた武具や生活用品が散乱していた。

 辛うじて残っている建物も大きく損傷していて、今にも崩れ落ちそうだった。


「これじゃあ、一から作り直すしかないね」


 唯の言う通りだ。

 これだけ徹底的に破壊されちゃ、修復は不可能だろう。

 王国軍が砦を再建するには、更地にしてから建て直すしかない。


「今回はあなた達のお蔭で戦いに勝てたけど、もし負けていたら王都もこの砦と同じように破壊し尽くされていたでしょうね。魔王軍に拠点を落とされたら、破壊と虐殺が避けられないから……」


 想像しただけで、ゾッとする。


 魔王軍は1%の魔族と99%の魔物で構成されているらしい。

 知性はあるけど残忍な魔族と、そもそも知性の無い魔物に街を落とされたりしたら、必然的に破壊と虐殺になってしまうのだろう。


「そう考えると、本当に勝てて良かったな」


「その通りね。アキラとユイがいなければ、王国はどうなっていたことか……」


 ソフィアはそう言って、感謝の気持ちを込めて俺達の手を握った。

 ちょっと恥ずかしい。


「お兄ちゃんと唯がいれば、どんな敵が相手でも絶対に勝てるよ!」


 唯が自信満々にそう言った。

 魔王相手でもたぶん大丈夫だとは思うけど、油断はしないようにしよう。


 俺達で魔王を倒して平和な世界を取り戻すぞ!

 そう思いつつ、俺達は砦を後にした。


    ◇    ◇    ◇


 砦を後にした俺達は、さらにどんどん北へと向けて走り続ける。


 馬が疲れたら唯が回復魔法をかけて、日が出ている間は休まず走り続ける。

 国王から貰った詳しい地図を見ながら、どんどん北に向けて走り続ける。


 日没後は無理をせず、マイホームの中でのんびりと過ごす。

 新たに布団も買っておいたので、ソフィアの寝床もばっちりだ。


 そうして北へ北へと走り続けて12日後、遠くに黒々とそびえ立つ城が見えてきた。

 間違いない。あれが魔王城だ。


 魔王城は、想像をはるかに超える巨大さだった。

 まるで黒曜石でできた巨大な山が、そのまま城になったかのような威圧感を感じる。


「よーし。魔王城も見えてきたし、今日はもう休むとしよう」


 何と言っても魔王との戦いだ。万全の状態で挑みたい。

 俺達はマイホームで一泊し、十分に体を休めることにした。


「明日はいよいよ魔王との戦いね。緊張するわ……」


 ソファーに座りながら、ソフィアが少し緊張した様子で言う。


「大丈夫だよソフィア。私とお兄ちゃんがいれば絶対に負けないから」


 唯は満面の笑みでそう言うと、俺の腕にじゃれついてきた。

 唯の無邪気な笑顔を見ていると、俺まで安心してくるな。


「そうだな。俺達の実力なら、たぶん魔王にも勝てるはずだ。でも気を抜かずに全力で戦おう」


 俺はじゃれつく唯の頭を撫でながら、決意を新たにした。


    ◇    ◇    ◇


 そして翌朝。

 俺達は魔王城がよく見渡せる草原に移動し、魔王との決戦の準備に入った。


「よーし。この辺でいいだろ。ソフィア、支援魔法をお願い」


「わかったわ。偉大なる神よ! 魔王に挑む勇者に祝福を! アルティメット・ブースト!!」


 ソフィアの支援魔法が発動し、俺達三人の体が白く輝く。

 体が軽く、力がみなぎってくるのを感じる。

 今回も無事ステータスが1割ほど上昇したのだろう。


「お兄ちゃん。私が魔王城を破壊するから、攻めてくる敵は全部お兄ちゃんにお任せね!」


 唯が元気よく言う。


 そう。作戦は先日の戦争と同じだ。

 唯がファイアボールを連射して魔王城を破壊し、俺が唯に近寄る敵を迎撃する。


「任せろ! 今回もこっちに来た敵は全部たたっ切ってやる!」


 俺は剣を構え、気合を入れた。


「それじゃ、いっくよー。連続ファイアボール!!」


 唯から放たれた超強力なファイアボールが、放物線を描いて魔王城に降り注ぐ。

 その巨大な火の玉は、まるで隕石のようだ。


 ドゴォォンッ!


 魔王城を覆うバリアのようなものにファイアボールがぶつかり、大きな爆発音が鳴り響く。

 唯は絶え間なくファイアボールを放ち続け、バリアは爆発を続ける。


 ドゴォォンッ!


 唯はファイアボールを打ち続ける。

 その間、俺とソフィアはちょっと手持ち無沙汰な感じだ。


「ユイのファイアボール、バリアに防がれてるわね」


「まぁ大丈夫だろ。唯のファイアボールには弾切れがないから、持久戦ならこっちが勝つ」


 唯はMPの回復速度が異常に速いので、ファイアボールを打ち続けても一切MPが減らない。

 なので、際限なくファイアボールを打ち続けることができる。


 一方、魔王城のバリアを維持するためには、結構な魔力が必要になるだろう。

 魔王がバリアを張っているのか、魔王の部下が張っているのかは分からないけど、いずれ魔力切れになるはずだ。

 なので持久戦になればこっちのものだ。


 1分経っても、唯はファイアボールを打ち続ける。

 2分経っても、打ち続ける。

 3分経った頃、魔王城のバリアに亀裂が入り始めた。


「よーし、あともう少し! えーーい!!」


 唯は休まずにファイアボールを放ち続ける。


 ドゴォォンッ! ドゴォォンッ!


 唯のファイアボールが魔王城のバリアを打ち砕き、ついに魔王城の中に突入した。


「よーし。これからが本番だ。魔王城を瓦礫の山に変えてしまえ!」


 バリアが無くなってからも、唯は途切れることなくファイアボールを放ち続ける。


 魔王城に次々と命中し、ドカンドカンと破壊していく。

 城壁もドカンと破壊! 塔もドカンと破壊! 本丸もドカンと破壊!

 魔王城が徐々に崩れ落ちていく。


 バリアを破壊した頃から、魔族たちもこれはまずいと思ったのか、城から魔法を放って唯に攻撃を仕掛けて来た。

 が、魔法は俺達に近づくにつれ勢いを無くし、俺達まで届くことなく消滅していった。

 何だこりゃ。


「ソフィア、何で敵の魔法が途中で消えてるんだろ?」


「分からないけど、あなた達の異常な魔法防御力のせいじゃないかしら。魔法防御力が高い人は弱い魔法を撃ち消したりするから、あなた達の場合は強力な魔法であっても打ち消してしまうのかもしれないわ」


 なるほど、魔法防御力か。

 今まで魔法で攻撃されたことが無かったから知らなかったけど、そういう効果があるんだな。


 魔法攻撃が通用しないと悟ったのか、10人ほどの魔族が魔王城を飛び出し、唯めがけて突っ込んでくる。


 だがその魔族たちも、当然唯の所までたどり着けたりはしない。

 俺がバッサバッサと切り捨ててしまうからだ。


 あっという間に全員を切り捨て、魔王城の方を見ると、もう既に魔王城は瓦礫の山になっていた。

 唯の火力はほんとヤバいな。


「お兄ちゃん。そろそろいいかな?」


「ああ。もう大丈夫だろ」


 魔王城を破壊し尽くしたので、唯のファイアボール発射を終了する。

 それじゃ魔王を探すとしますかね。


 俺達は廃墟と化した魔王城に向かって歩き出した。

 果たして魔王は無事なんだろうか。

 案外、ファイアボールが直撃してもう死んでたりしてね。


 すると、がれきの山を避けるようにして、一人の男が歩いてくるのが見えた。

 頭には立派な角が生えていて、全身が紫色の肌をしている、強者の風格のある魔族。


 間違いない。

 こいつが歴代最強と言われる魔王、バルタザールだ。

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