第27話 夏休みの宿題

「ソフィア様、アキラ様、ユイ様、国王陛下がお三方をお呼びでございます。皆様には、すぐに王城までお越し頂きたいとのことです」


 戦いも終わり、王都に向けて歩いていたところ、馬に乗った一団が近づいて来てそう言った。

 国王からの使者だ。


 きっと指名依頼の報酬が貰えるのだろう。

 唯の活躍っぷりを考えると、どれほどの報酬が貰えるのか今から楽しみだ。


「アキラ、ユイ、一緒に来てもらえる?」


 ソフィアがそう聞いてくる。

 王女様がいれば王城も顔パスで入れそうだ。


「いいよ。指名依頼の報酬をしっかり貰わないといけないし」


 と応じて、俺達は王城に向かうことにした。


    ◇    ◇    ◇


 俺達はソフィアの案内で、王城の応接室に入る。


 室内にはジョージ国王の他に、オスカー宰相とギルドマスターのオルダスさんが座っていた。

 いつもながら、俺達のことをかなり重要視しているようだ。


「アキラ殿、ユイ殿、ソフィア、よく来てくれた。貴殿らの活躍により、今回の戦いは王国軍の完勝となった。心より感謝する」


 国王はそう言って、俺達の手を取って丁重に礼を言った。


「いえ、陛下のご期待に添えたのなら光栄です」


 俺はそう答えつつ、唯とソフィアの顔を見た。

 二人とも嬉しそうに微笑んでいる。


「それでは、さっそく本題に入ろうか」


 そう言って国王は、今回の指名依頼の報酬について話し始めた。


「今回、アキラ殿とユイ殿には、最高の戦果を挙げてもらったと考えている。指名依頼の報酬として、金貨千枚と、エルムデールの街の一等地にある屋敷を与える。そして二人をSランク冒険者に認定しよう」


 金貨千枚だと、10億円くらいの価値になるかな。

 あとは一等地の屋敷となると、こちらも数億円くらいの価値はありそうだ。

 いち冒険者への報酬としては、十分な額といって良いだろう。


 あと、Sランク冒険者になれば、面白そうで報酬の良い依頼を受けやすくもなるだろう。

 いまSランク冒険者は誰もいないらしいので、俺達が唯一のSランク冒険者ということになる。


「ありがとうございます。この報酬、ありがたく頂戴します」


 俺は深々と頭を下げた。


「ところで陛下、次に魔王軍が攻めてくるのはいつ頃になりそうでしょうか? また俺達の出番が来るかもしれませんので、大体の時期が分かると有難いのですが」


「それが全く分からんのだ。今回の戦いは魔王軍の大きな打撃になったであろうから、すぐに攻め込んでくることは無いと思うが……」


 国王は難しい顔をした。やっぱり分からないようだ。

 でも、俺達がエルムデールの街で遊んでいる時に、王都が壊滅したりしたら寝覚めが悪いよなぁ。


「そもそも魔王軍はなぜ王国に攻め込んで来ているのでしょう? 魔族の本能みたいなものなんでしょうか?」


「そのあたりもよく分かっておらんのだ。魔王さえ討伐できれば戦争は終わるのだが……」


 魔王か……

 王都の図書館で読んだ本によると、魔王を討伐すると、次の魔王が誕生するまで100年ほどかかり、その間は魔王軍の侵攻が止まるらしい。

 一応、俺達は神様から『できれば魔王を倒して欲しい』って言われてこの世界にいるわけだから、この際魔王を倒してしまうのも一つの手だよな。

 そう思っていると、唯が俺の手を握り、小声で言った。


「ねえお兄ちゃん、私達で魔王を倒しちゃおうよ。そうすれば神様も喜ぶし、戦争も終わるんじゃない?」


 どうやら唯も同じようなことを考えていたらしい。


 確かに、魔王を倒せばたぶん戦争が終わるし、神様からの依頼も達成できる。

 うまくいけば一石二鳥。うまくいかなくても一鳥にはなる。


「そうだな。神様からの宿題を終わらせる、いい機会かもしれない」


 と唯の提案に同意し、国王に切り出してみることにした。


「陛下、魔王を討伐する指名依頼を出して頂けませんか。もちろん報酬は十分に頂きたいのですが」


「ほう、魔王討伐とは大それたことを言うではないか」


「出来るかどうかは分かりませんが、俺達なりに全力を尽くします。報酬は金貨一万枚でどうでしょう」


 魔王討伐なんだから、百億円くらいもらってもいいよね。たぶん。


「……少し考えさせてくれ」


 そう言って国王は、オスカーさんと内緒話を始める。


 金貨一万枚は言い過ぎたかな?

 国王なんだから百億円くらい出せると思ったんだけど。


 そんなことを考えているうちに、国王とオスカーさんの打ち合わせが終わったようだ。


「分かった。魔王討伐の指名依頼を出そう。報酬も金貨一万枚で問題ないが、20年の分割払いにさせてもらえるだろうか。毎年金貨500枚を支払うようにする」


 まさかの20年分割払いですか。

 なんか住宅ローンみたいだな。


 国王が代替わりした時とかに踏み倒されないかちょっと心配だけど、もしそうなったら違約金込みで強制的に徴収すればいいだけの話か。


「分かりました。20年の分割払いで結構です」


「それでは、アキラ殿とユイ殿に魔王討伐の指名依頼を正式に出そう。オルダス、書類を」


 オルダスさんがさっそく依頼書を作成し、俺と唯の前に差し出した。

 そこには魔王を討伐するという内容と共に、20年の分割で金貨一万枚が支払われるという報酬額が書かれていた。


 国王とオルダスさんがサインをし、続いて俺と唯がサインをする。

 これで魔王討伐の指名依頼が成立した。


「アキラ殿、ユイ殿。魔王討伐は我が国の悲願だ。くれぐれも無事を祈る」


 国王は俺達二人の肩に手を置いて言った。


 魔王を倒せば、この世界に俺達を連れて来てくれた神様への義理を果たせる。


 俺も唯も、夏休みの宿題は早めに終わらせるタイプだ。

 さっさと宿題を終わらせて、唯と二人で悠々自適の冒険者ライフを満喫することにしようか。

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