第26話 ドカンと一発、二発、三発・・・

 2日後。魔王軍との決戦の日。

 俺達は魔王軍の軍勢から3キロほど東の岩陰で、南下する魔王軍を監視していた。


 魔王軍の大軍が王都北側の平原から徐々に南下し、王都の北門に向かって進軍している。

 その北門の前には王国軍が陣取っていて、いよいよ戦いの時が迫りつつある。


「すごい大軍だね。関ケ原の戦いみたいな感じ?」


「セキガハラ? 何なのよそれは」


 唯の地球ネタにソフィアがついていけない。

 神様にもらった『異世界通訳』のスキルでも、さすがに『関ケ原の戦い』を翻訳することはできなかったらしい。


「大軍同士の大決戦ってことだよ。王国軍も魔王軍も、万は超えてるよな」


「私が聞いた話だと、王国軍は大体2万ってところね。魔王軍も同じくらいじゃないかしら」


 ソフィアは王女様だけあって、王国軍の大体の人数を把握しているようだ。

 しかし王国軍と魔王軍が同じくらいの人数なら、普通に戦ったら魔王軍に負けちゃうよな?

 魔王軍は様々な種類の魔物で構成されていて、その中にはオーガやトロルといった人間よりはるかに巨大な魔物も含まれているので、個々の戦力は魔王軍の方が上だろう。


「こりゃ、俺達が大暴れしないと王国軍は負けそうだな」


「期待してるわよ! レベル99のお二人さん!」


 ソフィアはそう言いながら、俺達の肩をたたく。

 まぁ、王都の平和のためにもひと暴れするとしますか。


 魔王軍は南下を続け、ついに王国軍との距離があと1キロほどに迫った。


 ソフィアが俺達の方を向く。


「そろそろ王国軍と魔王軍の戦いが始まるわ。準備はいい?」


「ああ、いつでも大丈夫だぞ」


「もちろん! いつでも戦闘開始OKだよ!」


 俺達は剣を握りしめ、ソフィアの方を見る。


「偉大なる神よ! 二人の勇者に力を与え、魔王軍を殲滅する力とせよ! アルティメット・ブースト!!」


 ソフィアが剣を天高く掲げると、剣の先が光り輝き、俺達二人にもその光が降り注いだ。

 体が熱くなり、力がみなぎってくるのを感じる。

 よし、これで準備完了だ!


「よーし、行くぞ!」


 俺達は岩陰から飛び出し、魔王軍に向かって全速力で駆け出した。

 そして、魔王軍から500メートルほどの見晴らしの良い場所で足を止めた。


「唯、頼む!」


 俺の合図に応えて、唯が魔法を放つ。


「それじゃいくね。連続ファイアボール!!」


 唯が叫ぶと同時に、巨大な火の玉が放物線上に放たれ、魔王軍めがけて飛んでいく。

 一発だけではない。途切れることの無い連続発射だ。


 ドゴォォン!!


 唯のファイアボールは超強力だ。

 桁外れの魔力が込められた火球が着弾すると、半径50メートルほどを吹き飛ばし、魔王軍の陣形にぽっかりと穴が開いていく。

 まるで巨大な爆弾が放たれているような光景だ。


「グオォォォォォッ!!」


 魔王軍の魔物達が悲鳴を上げる。

 超強力なファイアボールが次々と発射され、魔王軍は大混乱に陥った。


 唯はMPの回復速度も異常に速いので、いくらファイアボールを放ってもMPが枯渇することはない。唯は間髪入れずにファイアボールを連射し続ける。


「よーし。魔王軍は大混乱だ。どんどん打ち続けろ!」


「まかせて! でりゃーーー!!」


 唯がファイアボールの連射を続ける。


 一方、俺はというと、唯の援護に徹することにしていた。

 唯が攻撃に集中できるように、敵の攻撃から唯を守るのが俺の役目だ。


 俺は剣を抜き、唯に向かってくる魔物を次々と切り捨てていく。

 魔物達は、強化された俺の剣の前に、まるで赤子同然だった。


 そして唯はファイアボールを放つ! 放つ! 放ちまくる!


 大軍相手の戦いは唯の独壇場だなぁ。

 レベル99の魔法使いは、まさに大量破壊兵器だ。


 たまらず魔王軍は退却を始めたが、逃げる魔王軍にもファイアボールの雨は降り注ぎ、次々と敵の数が減っていく。


 これはもう勝負あったな。

 そう思った時、


「ぐおおおお! 人間風情がぁ!」


 突如、特に強そうな魔族が唯めがけて襲い掛かって来た。


「唯っ!」


 俺は咄嗟に剣を振るう。


 ズバァッ!


 魔族は真っ二つになって倒れた。

 さすがは国王に貰った『守護者の剣』だ、今まで使っていた鋼の剣とは一味違うな。

 特に、ポキッと折れそうに無いところがとてもいい。


「ありがとうお兄ちゃん!」


「どういたしまして。唯は魔法に集中してて」


「うん、わかった!」


 特に強そうな魔族を一刀両断したことで、魔王軍の士気は完全に崩壊した。

 残った魔物たちは、我先にと逃げ出していく。


 その間も唯はファイアボールを打ち続け、魔王軍は数を減らし続ける。

 もう1割も生き残っていないんじゃないだろうか。


「唯、そろそろ大丈夫そうだ」


「はーい」


 唯がファイアボールの連発をやめると、平原に静寂が戻って来る。


 視線に入るのは黒焦げになった魔物の大軍。


 いつもの冒険者の仕事なら魔物から魔石を取り出すところだけど、さすがにこの大軍から魔石を取り出そうとは思えない。

 後始末は王国軍に任せてしまうことにしよう。


「お兄ちゃん、大勝利だね!」


「ああ、今日のMVPは唯で決まりだな!」


 王国軍のいる方を見てみると、ほぼ被害は出ていない様子だ。

 完勝と言っていいだろう。


 指名依頼の報酬は『作戦の成果により後日決定』ってなってたけど、これなら良い報酬を期待できそうだな。


    ◇    ◇    ◇


 戦いが始まる少し前の、ソフィアが支援魔法を使った頃のことである。

 ジョージ国王は、王城の最上階にある執務室の窓から、遠くに見える戦場を眺めていた。


 王国軍は、騎士や兵士、冒険者など合わせて2万人ほどの大軍だ。

 彼らは盾を構え、槍を空に向けて突き出し、魔王軍の攻撃に備えている。


 対する魔王軍もまた、2万人規模の大軍である。

 魔王軍は様々な種類の魔物で構成されており、その中にはオーガやトロルといった、人間よりもはるかに巨大な魔物の姿もあった。


 魔王軍はゆっくりと前進し、王国軍との距離を縮めていく。

 戦いが始まれば、両軍入り乱れての大激戦になるだろう。

 多くの血が流れ、多くの命が失われる凄惨な戦いになるのは間違いない。


 ジョージは、固唾をのんで戦況を見守っていた。


 ドゴォォォン!!


 その時、戦場の奥で、複数の爆発が発生するのが見えた。


「何事だ!?」


 ジョージは思わず声を上げる。


 次々と爆発が起こり、ジョージ国王の目に飛び込んでくるのは、魔王軍陣営で発生した無数の炎と煙だった。

 まるで魔王軍の陣地に隕石でも降り注いだかのような光景だ。


 (一体何が起こっているんだ!?)


 混乱するジョージのもとに、おもむろに近衛兵が近づいて来た。


 「報告です。魔導通信隊からの連絡によりますと、ユイ様の攻撃魔法により、魔王軍が大混乱に陥っているとのことです」


 「なんだって!? ユイ殿の魔法だけでこれ程のことを!?」


 信じられないという思いでジョージは尋ねた。

 しかし、近衛兵はさらに続ける。


「はい。ユイ様の魔法は一発一発の威力が強大なうえ、信じがたい速度で連射されているようです。魔王軍は為す術もなく、混乱しているとのことです」


「そ、そうか…… ユイ殿がそこまでの魔法の使い手だったとは……」


 ジョージは驚きを隠せなかった。

 勇者ドレイクとの決闘やドラゴンの戦いなど、いつもユイはアキラを見守っている存在という印象だったので、ここまで強力な魔法使いだとは思っていなかったのだ。


 その時、再び近衛兵が報告を入れる。


「報告です。魔王国四天王の一人、魔将ネビロスがアキラ様に一太刀で斬られ、戦死したとの情報が入りました」


「なんと! あの魔将ネビロスを!?」


 ジョージの驚きはさらに大きくなった。


 魔将ネビロスは、魔王国の中でも最強クラスの実力を持つと言われている。

 そんな強敵を、アキラは一刀両断したというのだ。


 (アキラ殿とユイ殿は、まさに異次元の強さだな……)


 ジョージはそう思わずにはいられなかった。


 そして、ついに最後の報告が届いた。


「報告です。魔王軍は総崩れとなり、敗走を始めました。我が軍の損害は軽微。完全勝利となりました」


「そうか…… 何と言う勝利だ。もはや奇跡としか言いようがない」


 ジョージは安堵のため息をついた。

 アキラとユイの活躍のおかげで、最小の犠牲で戦いを終わらせることが出来たのだ。


 (アキラ殿にユイ殿。あの二人は、歴代の勇者と比べても桁違いの強さだ。この二人を王国の力にできれば、王国の安泰は揺るぎないものとなるだろう)


 ジョージはそう確信した。

 何とかしてあの二人には王国に定住してもらいたい。


 できればアキラ殿とソフィアを結婚させて、王族の一員になって欲しいところだが、アキラ殿とユイ殿の関係を考えるとそれは難しそうだ。

 何かいい方法は無いだろうか。


 あの二人を王国に引き留めるためなら、何でもやるぞ。

 そう心に決めたジョージは、アキラとユイに王城に来てもらうための使者を送ることにした。

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