第25話 出陣

 俺達は案内された部屋に入る。

 部屋の中央には大きなテーブルが置かれ、その上には地図が広げられていた。

 その周りにはジョージ国王、ソフィア王女、オスカー宰相と、見覚えのない軍人っぽい人が立っている。


 どうやら作戦会議の真っ最中だったようだ。

 邪魔しちゃったかな?


「おお、アキラ殿にユイ殿、よく来てくれた」


 国王が笑顔で俺達の方を向く。

 厳しい面持ちの中にも、どこか安堵したような表情が垣間見える。


「指名依頼を見て来ました。俺達に依頼された『特別作戦』の詳細を教えて頂けますか?」


 俺はさっそく本題を切り出す。

 国王は、俺達の隣に立っている軍人っぽい人に目配せをした。


「ああ、その件はジェフリー将軍から説明させよう。ジェフリー、説明を頼む」


「はっ!」


 知らないおじさんの名前はジェフリーと言うのか。

 短髪で鋭い眼差しの、いかにも軍人っぽいおじさんだ。

 この人が『特別作戦』を考えた人なのかな?


「では説明しよう。我が軍は、魔王軍を王都北側の平原で迎え撃つ予定だ。その際、お主らとソフィア王女の3人で、敵軍の東側面から奇襲をかけてもらいたい」


 ジェフリー将軍はそう言って、地図の平原の東側の部分を指差した。


 少人数での奇襲攻撃か。

 それなら本気で暴れても味方の巻き添えを心配する必要はなさそうだ。

 俺達に向いている作戦のような気がする。


 でも何でソフィアが一緒なんだろう?


「俺達が奇襲攻撃を仕掛けるのは分かりますが、なぜソフィア王女も一緒なんでしょう?」


「ソフィア王女は王国一の支援魔法の使い手でな。お主らの力をさらに引き出せるはずだ。それに何より、ソフィア王女自らが志願されたのだ」


「そうよ! 私がいれば必ず役に立つわ。期待してもらっていいわよ!」


 ソフィアは自信満々にそう言った。

 一緒に戦いたいという熱意が伝わってくる。


 支援魔法ってことは、元々が異常に高い俺達のステータスを、さらに上昇させることが出来るのかな?

 もしそうなら、かなりの戦力アップになりそうだ。


「よろしく、ソフィア。期待してるよ」


「任せなさい!」


 本当にソフィアは元気だな。

 ちょっと前まで石化してたとは思えないほどの元気さだ。


「分かりました。特別作戦、引き受けます」


「ありがとう。ご協力に感謝する」


 ジェフリー将軍が頭を下げる。


「それで、決戦はいつ頃になりそうですか?」


 俺の問いに、ジェフリー将軍が答える。


「魔王軍は、4日後には王都北側の平原に到着する見込みだ。お主らは2日後に出発して、王都北東の平原に潜伏しておいてもらいたい」


「了解しました。ソフィア、2日後の朝に宿屋の『桜凰館』に来てくれるかな。一緒に出発しよう」


「分かったわ。私に任せて!」


 作戦の概要は理解できた。

 後は当日までに準備をしっかりとしておこう。


「それでは陛下、俺達はここで失礼します。もし作戦変更などがありましたら、『桜凰館』まで連絡をお願いします」


「うむ。すまないが、よろしく頼む」


 国王に一礼をして、俺達は作戦会議の部屋を後にした。


 今度の依頼は王国の命運をかけた一大決戦になりそうだな。

 さ~て、いつもより気合を入れて挑みますかね。


    ◇    ◇    ◇


 2日後の朝、予定通りソフィアが『桜凰館』にやって来た。


「おはよう! さあ、戦いに出発するわよ!」


 元気よく挨拶をするソフィア。

 これから戦争に行くんだけど、まるで遠足に行くかのような明るい表情だ。


 ソフィアはいつもの可愛らしいドレス姿ではなく、動きやすそうな服装に身を包んでいる。

 支援魔法の使い手ということなので、軽装で戦うスタイルなんだろう。


 俺達も国王から貰った『守護者の剣』を装備し、準備万端だ。


「それじゃあ、出発しようか」


「オッケー! 魔王軍をやっつけちゃうわよ!」


 俺達は宿を出て、王都北東の平原に向けて歩き出した。


「ねえねえ、アキラとユイって、兄妹なの? それとも恋人なの?」


 歩き始めてしばらくすると、ソフィアが唐突にそう聞いてきた。


「兄妹でもあり恋人でもある、って感じかな」


 俺はあっさりと答えた。

 ソフィアの目が点になる。


「え! 兄妹なのに恋人なの!? じゃあ、私とお付き合いしたりは出来ないの?」


 ソフィアがそう言うと、唯が


「お兄ちゃんは私と結婚するんだから、ソフィアとはお付き合いできないよ!」


 と言いながら、俺の右腕に抱きつく。


「冗談よ。今のところはねっ」


 そう言いながら、ソフィアが俺の左手を握る。


 今のところじゃなく、ずっと冗談にしておいて欲しいなぁ。

 この国の貴族は一夫多妻制のようだけど、俺は唯以外の人と結婚するつもりは全く無い。


 そんな無駄話をしているうちに、俺達は目的地である王都北東の平原に到着した。


「それじゃ、ここで魔王軍が来るのを待つとしようか」


 魔王軍が来るのは2日後になる見込みなので、まだ時間に余裕がある。

 岩陰の目立たない所にマイホームのドアを出し、お茶でも取ってこようとしたところ、


「これが噂のマイホームなのね! 中はどうなってるのかしら?」


 そう言ってソフィアがマイホームのドアを開けた。

 え? 何でドアを開けられるの!? 俺と唯以外はマイホームに近づけないはずでは!?


「ソフィア、どうやってドアを開けたんだ!?」


「いや、ドアなんだから、普通に開けただけだけど……」


 うーん。どうやら『俺と唯以外は入れない』という前提は間違っていたらしい。

 シャーロット達は入れなかったのに、なんでソフィアは入れるんだろう?


 でも、ソフィアがマイホームに入れたのは好都合だ。

 3人ともマイホームに入れるんだったら、不便な野営をしなくて済むからな。


「ここが私達の家だよ。案内するね!」


 唯がソフィアの手を引いて、家の中を案内し始めた。


「ここがリビングだよ。椅子があって、テーブルがあって、それに…… 冷蔵庫!」


「冷蔵庫? なにそれ?」


「冷たい風を出して、食べ物を冷やしておける魔道具みたいなものだよ。見て!」


 唯が冷蔵庫のドアを開ける。

 中からは冷気が漏れ出し、野菜や肉などが整然と並んでいる。


「すごい! この箱の中だけ寒いのね! まるで氷の洞窟みたい!」


 ソフィアは目をキラキラさせて冷蔵庫を覗き込む。

 たぶんこの世界には冷蔵庫的な魔道具は無いんだろう。


「次は水回りだよ。こっちがトイレで、こっちがお風呂」


「何なのこれ!? こんなトイレ見たことないわ!」


 ソフィアが驚きっぱなしだ。

 そりゃそうだよな。この世界では水洗トイレとかシャワーとか見たことないし。


「そして最後に、ここがお兄ちゃんと私の寝室!」


 寝室に案内されたソフィアは、部屋の中央にある大きなベッドを見てぽかんとする。


「あれ? ベッドが1つしかないわね…… もしかして二人は、このベッドで一緒に寝てるの?」


 ソフィアの頬が赤く染まる。


「もちろん! 私達は兄妹で恋人なんだから、一緒に寝るのは当たり前だよ」


 唯が胸を張って言う。


「そ、そっか…… このベッドで二人が愛し合っているのね……」


 ソフィアの顔がさらに赤くなっていく。

 何だか誤解されてるような気もするけど、わざわざ違うって言うのも言い訳くさいし、まあいいか。


「じゃあ、とりあえずリビングに戻ろうか」


 一通りの案内を終えた俺達は、リビングに戻ってソファに腰掛ける。

 ソフィアは興味深そうに部屋の中を見回していたが、棚の上にあるものを見つけて目を輝かせた。


「あれってステータスストーンじゃない?」


「ああ、俺達のステータスを測るのに使ってるんだ」


「ねぇ、あなた達のステータスを見せてもらってもいい?」


「ああ、別に構わないよ。ソフィアのステータスも見ていい?」


「もちろんいいわよ。じゃ、さっそくやってみましょ」


 そう言って、まずはソフィアがステータスストーンに手をかざした。


 <ソフィアのステータス>

 ・レベル  :35

 ・HP   :315

 ・MP   :385

 ・攻撃力  :133

 ・魔力   :207

 ・物理防御力:142

 ・魔法防御力:210

 ・素早さ  :175

 ・スキル  :格闘術(3)、剣術(6)、支援魔法(8)、攻撃魔法(3)


 レベル35か。Aランク冒険者なみの強さだな。

 支援魔法のスキルレベルは8と、名人級の高レベルになっている。実に頼もしい。

 王国一の使い手というのは、嘘ではないようだな。


 俺と唯もステータスストーンに手をかざす。


 <明のステータス>

 ・レベル  :99

 ・HP   :1187

 ・MP   :991

 ・攻撃力  :695

 ・魔力   :497

 ・物理防御力:688

 ・魔法防御力:490

 ・素早さ  :501

 ・スキル  :マイホーム(-)、格闘術(4)、棍棒術(3)、剣術(7)


 <唯のステータス>

 ・レベル  :99

 ・HP   :990

 ・MP   :1188

 ・攻撃力  :509

 ・魔力   :700

 ・物理防御力:495

 ・魔法防御力:693

 ・素早さ  :685

 ・スキル  :マイホーム(-)、格闘術(3)、剣術(5)、攻撃魔法(7)、回復魔法(5)


 レベルは99のままだけど、スキルレベルの向上がめざましい。

 俺の剣術、唯の攻撃魔法のスキルレベルは7まで上がっており、これは達人級のレベルだ。

 たぶん実戦経験を積みまくっているのがレベルアップに繋がったのだろう。


「話には聞いていたけど、レベル99のステータスは凄まじいわね。これなら魔王でも瞬殺できるんじゃないかしら」


 ソフィアが俺達のステータスを見て、感心したように言った。


「ソフィア、よかったら試しに支援魔法を使ってみてくれないか? 俺達がどれくらい強くなるのか試してみたいんだ」


「分かったわ。じゃあ私の最強の強化魔法、アルティメット・ブーストを使ってみるわね」


 ソフィアは剣を掲げ、詠唱を始める。


「偉大なる神よ! 今ここに集いし勇者達に祝福を! アルティメット・ブースト!!」


 ソフィアの剣が煌めき、俺達の体が白く輝く。

 力が湧き上がってくるのを感じる。


「よし、もう一度ステータスを確認してみよう」


 俺達は再びステータスストーンに手をかざした。


 <明のステータス>

 ・レベル  :99

 ・HP   :1187

 ・MP   :991

 ・攻撃力  :695(+69)

 ・魔力   :497(+49)

 ・物理防御力:688(+68)

 ・魔法防御力:490(+49)

 ・素早さ  :501(+50)

 ・スキル  :マイホーム(-)、格闘術(4)、棍棒術(4)、剣術(7)


 <唯のステータス>

 ・レベル  :99

 ・HP   :990

 ・MP   :1188

 ・攻撃力  :509(+50)

 ・魔力   :700(+70)

 ・物理防御力:495(+49)

 ・魔法防御力:693(+69)

 ・素早さ  :685(+68)

 ・スキル  :マイホーム(-)、格闘術(4)、剣術(6)、攻撃魔法(7)、回復魔法(5)


「おおっ! これはすごい! ステータスがプラスされてるぞ!」


「すごいでしょ。私のアルティメット・ブーストはステータスを1割アップすることができるのよ」


 ソフィアが自慢げに言う。


 確かにこれはすごい。

 『1割アップ』というところが、元々ステータスが高い俺達にぴったりだ。

 レベル110ぐらいのステータスになったんじゃないだろうか。


「ソフィアが来てくれて良かった。これなら安心して魔王軍を戦えるよ」


「そうでしょ! そうでしょ!」


 俺に褒められ、ソフィアはさらに嬉しそうな顔をする。


 こんな調子で俺達はマイホームの中でワイワイと盛り上がった。

 戦いの前だけど、緊張してガチガチになるよりもこの方がずっと良い。


 あと2日もすれば魔王軍との決戦だけど、いつもの依頼と同じように、リラックスして挑むことにしよう。

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