第24話 特別作戦

「お世話になりました」


 そう言いながら、宿泊していた『桜凰館』の受付の人に部屋の鍵を返却する。


 国王の依頼をクリアした俺達は、元々の目的である王都観光を再開した。

 繁華街を散策したり、土産物屋を冷やかしたり、大道芸人の曲芸を楽しんだり、図書館で本を読み漁ったりと、めいいっぱい王都を満喫した。


 そして今日は、エルムデールの街に戻る日だ。

 まさかドラゴンと戦うことになるとは思ってなかったけど、それも含めて良い旅の思い出になったな。

 また今度、どこかに旅行に行こう。


 そんなことを考えていると、突然『カーン、カーン、カーン』と、大きな鐘の音が響き渡った。

 宿の中にいてもこれだけ大きく聞こえるんだから、相当な大音量だ。


「何かあったのかな?」


 唯が不安そうに俺の腕にしがみついてくる。

 うーん、何だろ。火事かな?

 考えても分からないので、知っていそうな人に聞いてみよう。


「すみません。この鐘の音って何かあったんですか?」


 俺が受付の人に尋ねると、


「これは緊急招集の鐘ですね。騎士や兵士を緊急招集するためのものです。何があったか分かりませんが、あまり良いことではなさそうですね……」


 と教えてもらった。


 緊急招集か。

 何が起きているかは分からないけど、俺達の出番があるかもしれないな。

 まずは情報を集めたい。


「唯、とりあえず冒険者ギルドに行ってみよう。ギルドならたぶん情報が入ってくると思うから」


「うん。そうだね」


 状況が気になった俺達は、とりあえずギルドに向かうことにした。


    ◇    ◇    ◇


 ギルドに着くと、中は情報を求める冒険者達で溢れかえっていた。


 掲示板を見てみたが、緊急事態について書かれたものは見当たらない。

 混んでるし、一回外に出て『マイホーム』で時間を潰してようかな。


 そう考えてギルドの外に向かおうとしたところ、


「アキラ君! ユイ君! ちょっとこちらに来てくれ!」


 と、ギルドマスターのオルダスさんに呼び止められた。


 いつもクールなオルダスさんが大声を出してるの、初めて聞いたな。

 慌てて俺達をキープしておきたくなるような、何かが起こっているのだろうか。


 俺達はオルダスさんに促されるまま、3階の応接室へと案内された。

 俺はさっそくオルダスさんに聞いてみる。


「すごい鐘の音が鳴りましたけど、何があったんですか?」


「何が起きたかはわからないけど、緊急事態なのは確かだね。王城から連絡が来るはずだから、この部屋で少しだけ待っていてもらえるかな」


 そう言い残すと、オルダスさんは慌ただしく部屋を出て行った。

 忙しい中、わざわざ俺達を応接室に連れて来たということは、オルダスさんは俺達の出番があると思っているんだろうな。


「お兄ちゃん、何が起きたのかな?」


「さあ、でもオルダスさんも分からないみたいだし、連絡を待つしかないみたいだな」


 俺はソファに腰掛けながら唯に言った。


「そうだね。でも王城から連絡が来るってことは、よっぽどの事態なのかも」


「ああ、わざわざ俺達を引き留めたわけだし、俺達の力が必要とされるような何かが起きているのかもな」


 そう言いながらも、俺達にできることは今は無い。

 緊急事態を無視して街を出て行くのは気が引けるし、素直にここで情報が入るのを待つことにしますか。


    ◇    ◇    ◇


 俺達はオルダスさんに言われた通り、応接室で待機していた。

 外からは騒々しい声が聞こえてくるけど、この部屋は防音がしっかりされているらしく、その声も少しかすんで聞こえる。


 暇つぶしに応接室に置いてあった本を読んだりして1時間ほど経った頃、ふいにドアが開き、オルダスさんが戻って来た。


 だけど、その表情は冴えない。

 よほど良くない知らせなんだろう。


「待たせて悪かったね。たった今、王城から連絡が入ったよ」


 そう切り出したオルダスさんは、重々しい口調でこう続けた。


「魔王軍が、北から王都に向かって進軍しているらしい」


「魔王軍が!?」


 思わず聞き返してしまった。

 いや~ 戦争か~~。

 前回の戦いで北の砦が落とされて、今度はいよいよ王都に進軍ってわけか。

 攻め込まれているということは、王国軍は劣勢ってことなのかな。


「ああ。詳しい状況はまだ分かっていないが、かなりの大軍らしい」


 オルダスさんは、厳しい表情で続けた。


「事態は深刻だ。王都には多くの兵士がいるが、魔王軍の規模からしてやや劣勢であると言わざるを得ない。そこで国王陛下は、Cランク以上の全ての冒険者に対して、魔王軍との戦いへの協力を要請されたんだ」


 Cランク以上となると、俺達Aランクも当然含まれるわけだ。

 戦争にはなるべく関わりたくないけど、かといって王都が陥落したりするのも嫌だし、ここは協力した方が良さそうだな。


「それで、君たちにはさらに特別な依頼が来ている」


 そう言ってオルダスさんは、机の上に一枚の紙を置いた。

 指名依頼の依頼書だ。


 依頼書には

 ・依頼者 :国王 ジョージ・フレデリック・グレイソーン

 ・依頼内容:魔王軍との戦争における特別作戦の実施

 ・報酬  :作戦の成果により後日決定

 と書かれている。


 依頼内容も報酬も、ずいぶんと曖昧な書きっぷりだ。


「特別作戦って、具体的にはどんな内容なんですか?


「分からないけど、きっと君たちにしか出来ないことなんだろうね。陛下から直接説明があると思うから、これから王城に行ってもらえるかい」


 うーん。やはり詳細は国王から直接聞かないと分からないか。

 俺は唯に向き直った。


「唯、どうする? この依頼、引き受ける?」


「うーん。特別作戦の内容によると思うから、とりあえず話だけでも聞いてみようよ」


「そうだな。オルダスさん、まずは話を聞きに行こうと思います」


「ありがとう。君たちの力が必ず役に立つはずだ。王城へは、ギルドが用意した馬車で向かってくれるかな。すぐ出発できるように手配しておいた」


 なんだか、最初から俺達が引き受けることを想定していたようだな。

 まぁ、俺達が勇者を再起不能にしたわけだから、勇者の代わりをお願いしますってことなんだろう。


 俺達は応接室を出ると、ギルドの裏手に停められた馬車に乗り込んだ。


「お兄ちゃん、特別作戦ってどんなことするんだろうね」


 唯が不安そうに尋ねる。


「さあ、何だろうな。でも国王が直々に俺達を指名したくらいだし、たぶん俺達の力がないと出来ないような、かなり無茶な作戦なんじゃないか?」


「うん。そうだよね……」


 ちょっと怖いけど、王都の人たちのために頑張るとするか!

 まぁ、あんまりひどい作戦だったら断るけど。


「大丈夫だよ、唯。何があっても、唯のことはお兄ちゃんが絶対に守るから」


「うん! お兄ちゃんのことは私が守ってあげるね!」


 馬車を走らせること数十分。

 俺達は王城の前に到着した。


 兵士に案内され、国王がいるという部屋へと向かう。

 さてさて、どんな特別作戦が待っているのかな。

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