第23話 王女ソフィア
俺達は王都に戻ると、さっそく冒険者ギルドに向かった。
依頼達成の報告をするためだ。
冒険者ギルドに到着し、受付嬢に指名依頼の達成を伝えると、すぐにギルドマスターのオルダスさんの執務室へと案内された。
部屋に入ると、オルダスさんは立ち上がり、驚いた表情で俺達を迎えた。
「アキラ君、ユイ君。ずいぶん早い帰還だね。浄呪花は手に入ったのかい?」
「はい、無事に採取できました」
「まさか本当にドラゴンに勝つとは、いやはや、君たちは本当に規格外だね」
オルダスさんは呆れたような感心したような声をあげた。
まぁドラゴンだから、普通は勝てるとは思わないよな。
「実はドラゴンの角も持って帰って来たのですが、買い取って頂けますか?」
オルダスさんは少し考え込んだ後、こう言った。
「ドラゴンの角は非常に貴重なものだ。まずは国王陛下にお見せした方がいいだろうね。面会の予約を取るから、浄呪花も直接陛下に渡してもらえるかな」
冒険者ギルドで納品して終わりじゃないのか。珍しいパターンだな。
やはり国王からの指名依頼ともなると、特別扱いなんだろう。
「分かりました。俺達は『桜凰館』に泊まってますので、面会の日程が決まったら連絡を頂けますか」
「分かった。明日中には日程を連絡させよう」
俺達は礼を言って、ギルドを後にした。
そして翌朝、『桜凰館』で朝食を取っているとギルドからの連絡員がやって来て、その日の午後に面会が決まったと告げられた。
ギルドも国王も、仕事が早いなぁ。
◇ ◇ ◇
午後になり、俺達はオルダスさんと一緒に馬車で王城に移動し、謁見の間に通された。
部屋には国王の他に、前回も会った宰相の人と、初めて見る髭の長いお爺さんが同席していた。
「アキラ殿、ユイ殿。よく来てくれた。早速だが、浄呪花を見せてもらえるか」
国王に促され、俺は魔法の袋から浄呪花を取り出す。
「はい。こちらが浄呪花です。念のため5輪採ってきました」
「確かに浄呪花だな。うむ。間違いない。アキラ殿、ユイ殿。本当にありがとう」
国王はどれほどの感謝の言葉を並べても足りないといった様子で、深々と頭を下げてきた。
それほどソフィア王女の回復を強く願っていたということだろう。
「浄呪花は手に入った。バジル、さっそく解呪ポーションの作成を頼む」
「はい。では作成に取り掛かります」
どうやら髭の長いお爺さんは、バジルと言うらしい。
バジルさんは浄呪花を手に取ると、部屋の隅に置かれた作業台に向かった。
そこには不思議な形をしたフラスコや、色とりどりの液体の入った瓶が並んでいる。
バジルさんは慎重に浄呪花の花びらをちぎり、フラスコの中に入れていく。
そこに何やら薬品を混ぜ、呪文を唱え始めた。
すると、フラスコの中の液体が白く輝き始めた。
バジルさんの呪文が終わると、フラスコの中には真っ白に輝く液体が出来上がっていた。
「陛下、解呪ポーションが完成しました」
バジルさんはそう言って、出来上がったポーションを国王に手渡した。
国王はポーションを受け取ると、石化したソフィア王女の部屋へと移動する。
俺達もその後ろに付いていく。
ベッドに横たわるソフィア王女は、前回見た時と全く変わらない様子だった。
国王はポーションを手に取ると、ソフィア王女が眠るベッドに歩み寄り、王女の唇にポーションを垂らす。
すると奇跡が起こった。
石と化していた王女の体が、みるみるうちに元の肌色を取り戻していったのだ。
やがて王女の胸が、ゆっくりと上下し始める。
呼吸を再開した証拠だ。
「……ここは?」
ソフィア王女の口から、かすかな声が漏れ聞こえた。
「ソフィア! よかった…… 本当に良かった……」
国王はソフィア王女を抱きしめ、喜びを噛み締めるようにそう言った。
「お父様……? 私は、どうして……」
「ああ、ソフィア。お前は石化の呪いにかかっていたのだ。だが、もう大丈夫だ。呪いは解けたのだ」
国王は、ソフィア王女の頭を優しく撫でながら、そう言った。
「石化の呪い……? そういえば、魔王軍との戦いで……」
ソフィア王女は、少しずつ記憶を取り戻していくようだった。
「ああ、もう大丈夫だ。ゆっくり休むといい」
国王は、安堵の表情でソフィア王女にそう言った。
「ゆっくり休んでなんていられないわ。魔王軍との戦いはどうなったの? あと、このお二人はどなた?」
ソフィア王女は、ゆっくり休んでくれるような大人しいお姫様ではなかったらしい。
まぁ最前線で魔王軍と戦っていたそうだしね。
国王は優しい笑みを浮かべながら、王女に説明し始めた。
「ソフィアよ。魔王軍はひとまず撤退したが、北の砦を破壊されてしまった。近いうちにまた攻め込んで来るだろう。そしてこの二人は、ソフィアの呪いを解くためにドラゴンと戦って浄呪花を採取してくれた、冒険者のアキラ殿とユイ殿だ」
「あなた達が私の呪いを解いてくれたのね。ありがとう!」
ソフィア王女が俺と唯の手を握ってブンブン振り回す。
さっきまで石化していたとは思えないほどの元気さだ。
「確かに浄呪花は俺と唯で採取したけど、陛下が冒険者ギルドに依頼を出したり、バジルさんが解呪のポーションを作ったり、みんなで力を合わせてソフィア王女の呪いを解いたんだよ」
「それでも、ドラゴンと戦って勝つなんて凄いわ! あと、命の恩人なんだから、私のことはソフィアって呼び捨てにしてね!」
「わかったよ、ソフィア。これからもよろしく」
「うん! 一緒に魔王軍と戦おうね!」
ソフィアがまた俺の手を取ってブンブン振り回す。
どうやら振り回すのがお好きらしい。
「そうだ、お礼をしないと! お父様、お礼はしたの?」
ソフィアが国王に向かって言う。
国王は頷きながら答えた。
「アキラ殿とユイ殿には、依頼達成の報酬として金貨100枚を用意した。それに、もし望むならば騎士爵の爵位も授ける」
「たったそれだけなの!? 足りないわ!」
ソフィアが不満そうに唇を尖らせながら、勝手に値上げ交渉を始める。
いいぞ、もっとやれ。
「ソフィアよ、あまりに高額な報酬は、かえって国民の反発を買うことになる。バランスが大事なのだ」
「むむむ…… そう言われれば、確かにそうだけど……」
国王の言葉に、ソフィアはしぶしぶ納得したようだ。
確かに自分の娘だけを
しかし、
俺達はたぶん価値のあるものを入手した。ドラゴンの角だ。
「陛下、ちょっとお願いがあるのですが」
「なんだね、アキラ殿」
「この前のドラゴンとの戦いで剣が折れてしまいまして、良い剣を入手したいのです。そのために、ドラゴンの角を買い取って頂けないでしょうか」
「なんと、ドラゴンの角だって!?」
国王とソフィアが目を丸くする。
まぁドラゴンだから、驚くのも無理はないよね。
俺は『マイホーム』から、慎重にドラゴンの角を取り出した。
長さが3メートルほどもある、巨大な角。
それを目の前に置くと、国王もソフィアも、しばし言葉を失っていた。
高く売れるといいなー。
「どうでしょう。こちらがドラゴンの角です」
「私としても、アキラ殿とユイ殿には良い武器を使ってもらい、より一層の活躍をしてもらいたいと考えている。買取ではなく、強い武器との交換という形ではどうだろうか」
国王が、真剣な眼差しで言う。
国王お墨付きの剣なら、店で買うよりも良い物が手に入るかもしれない。
「喜んで。どんな剣を用意して頂けるのでしょうか」
「それでは実物を見てもらおう。オスカー、『守護者の剣』を持ってまいれ」
「かしこまりました」
宰相のオスカーさんが部屋を出て行き、すぐに大きな箱を抱えて戻って来た。
「陛下、守護者の剣をお持ちしました」
オスカーさんは、箱を国王の前に置いた。
国王は箱を開けると、中から大剣とショートソードを取り出した。
「この大剣と小剣は『守護者の剣』と言われている。アダマンタイト製で、どんなに硬い敵でも切り裂くと言われている魔剣だ。アキラ殿とユイ殿にぴったりの剣だと思うのだが、どうだろうか」
差し出された剣を手に取り、鞘から抜く。
真っ直ぐに伸びた刀身が、青白い光を放っている。
これは――今まで使っていたただの鋼の剣とは、別格な感じがするな。
実際にどれくらいよく切れるのかは実戦で試してみないと分からないけど、国王イチ押しの剣ならば、間違いは無いだろう。
「アキラ殿、どうかな? この剣でよければ、ドラゴンの角と交換しよう」
「ありがとうございます。この剣なら申し分ありません。ぜひ交換をお願いします」
よかった。
勇者やドラゴンとの戦いで痛感した『剣が弱すぎる』問題が、これで解消できそうだ。
「それと、アキラ君、ユイ君」
ギルドマスターのオルダスさんが口を開く。
「ドラゴンにも勝ってしまう君たちがBランク冒険者というのはおかしな話だね。Aランク冒険者に認定するから、後でギルドに来てもらえるかい」
「え! 本当ですか!? ありがとうございます!」
ついに俺達もAランク冒険者か。
これで指名依頼じゃなくてもAランクの依頼を受けられるようになるな。
こうして俺達は、金貨100枚と大剣・小剣を受け取り、Aランクへの昇格も約束された。
ソフィアの笑顔に見送られながら、俺達は意気揚々と王城を後にしたのだった。
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