第22話 ドラゴンとの戦い

 俺と唯は剣を構え、ドラゴンの攻撃を待つ。

 巨大なドラゴンの迫力にビビりそうになるけど、何とかなるはずと自分に言い聞かせる。


 ドラゴンが巨大な尾を振るう。

 鞭のような尾が、俺達めがけて猛スピードで迫って来る。


 これまでの経験上、たぶん当たっても大丈夫なんだろうけど、俺達は跳躍して尾をかわした。

 見た目の迫力がすごいから、直撃を食らうのはちょっとね。


 着地した瞬間、今度はドラゴンが火球を吐く。

 赤く燃える火の玉が、俺達を飲み込もうと迫る。


「アイスウォール!」


 唯が素早く反応し、俺達の目の前に氷の壁を築く。


 ドゴォォン!!


 火球が氷の壁に激突し、爆発する。


 まだまだ攻撃は終わらない。

 ドラゴンの鋭い爪が、俺の胸を狙って振り下ろされる。


 が、その程度のスピードで俺達に攻撃を当てることはできない。

 余裕を持って、ひらりと身をかわす。


「どうした貴様ら! 逃げてばかりでは我には勝てぬぞ!」


 ドラゴンさんは攻撃が当たらず、ちょっとイライラしているようだ。

 でももうちょっとイライラしてもらおう。


 唯と事前に話し合った『力を見せつけろ作戦』の内容はこうだ。


 ①ドラゴンを挑発して、角を折れば俺達に従うことを認めさせる。

 ②ドラゴンの攻撃をかわし続けて、俺達にドラゴンの攻撃が効かないことを証明する。

 ③ドラゴンの角を切って、俺達がドラゴンを倒せることを証明する。


 今は②の段階なので、まだもう少しドラゴンに攻撃を続けてもらう。


「そんな大振りの攻撃じゃ、一生かかっても俺達に当たらないですよ!」


「なんだと! 次の攻撃で仕留めてくれるわ!!」


 沸点の低いドラゴンがさらに猛攻をしかけてくる。

 両手、両足、牙に尻尾まで使って俺達を攻め続けるが、その攻撃が俺達に当たることは無い。

 素早さが違いすぎるのだ。


 (そろそろ反撃のターンに入ってもいいかな)


「唯、魔法を頼む」


「おっけーだよ」


 そう応えた唯が、ドラゴンに向けてアイスストームの魔法を放つ。

 一気に吹雪のような寒気がドラゴンを包み込み、ドラゴンの体温を奪っていく。


「ぐわああああ!」


 ドラゴンが苦悶の叫び声をあげる。

 唯の魔法によってドラゴンの体温が一気に下がり、動きが鈍くなっているのがわかる。


「よーし、効いてる! お兄ちゃん、今のうちに!」


 唯の声に応えて、俺はドラゴンに向かって全速力で突進する。

 一気にドラゴンの体を駆け上がり、ドラゴンの頭上へと飛び乗った。


「これで勝負あったな!」


 俺は剣を高く振り上げ、ドラゴンの角を斬りつける。


 カキィイイン!


 が、剣はドラゴンの角に触れた瞬間、あっけなく折れてしまった。

 どうやら鋼の剣でドラゴンの角を切るのは無理があったようだ。


 これは困った、

 素手でドラゴンの角をへし折ることは出来ると思うけど、それだとドラゴンが大怪我をしてしまう。

 できれば、ドラゴンを傷つけずに角を折りたいところだ。


 俺はドラゴンの頭から飛び降り、唯に向かって叫ぶ。


「剣じゃ駄目だ! 魔法で切ってくれ!」


「まかせて!」


 唯が動きの鈍ったドラゴンの攻撃を避けながら、ドラゴンの頭に飛び乗る。


「えいっ! ウインドカッター!!」


 唯の手から放たれた真空の刃がドラゴンの角を切り裂く。

 見事にドラゴンの両角が、根本からするりと切り落とされた。


 傷口からは血は流れていない。

 唯の魔法は、ドラゴンを傷つけることなく見事に角だけを切り落としたのだ。


「よし! やったぞ唯!」


「うん! やったね、お兄ちゃん!」


 俺達は笑顔で抱き合う。

 これで、俺達がドラゴンよりも強いことを証明することが出来ただろう。


「ええと、これでドラゴンさんも俺達の方が強いって認めてくれますよね?」


 俺は、角を切り落とされてうろたえるドラゴンに確認を取る。


「……こうなっては、負けを認めざるを得ない。残念だが、我よりもお前達の方が強いようだ」


 ドラゴンは悔しそうに言葉を絞り出す。


 良かった良かった。

 もし『認めぬ、認めぬぞぉおお!』とか言ってゴネられたら、ちょっと面倒なことになるところだった。


「それじゃあ約束通り、浄呪花を採取させてもらいますね」


「ああ、好きなだけ持っていくがよい」


 俺達はさっそく浄呪花の咲く岩場に移動して、紫色の花を摘む。


 この花が石化の呪いを解く薬の材料になるんだよな。

 どう見ても普通の花にしか見えないけど。


 花は1輪で大丈夫と聞いたけど、念のため5輪ほど摘んで、国王から預かった魔法の袋に入れる。

 この袋の中は、時間の進み方が100分の1くらいになるそうだ。


 この袋があれば、生鮮食料品の長期保存が可能になる。

 ぜひ欲しい。

 欲しいけど買うには金貨1枚ほどかかるらしい。


 高いけど、今回の依頼で金貨100枚の報酬がもらえるから買ってもいいかもなぁ。

 後で唯に相談しよう。


 よし、無事浄呪花の採取も終わった。

 さあ帰るか、と思った時に、ドラゴンから切り落とした2本の大きな角が目に入る。


 たぶんこの角、高く売れるよな。


「ドラゴンさん。この角、持って帰ってもいいですか?」


 俺は丁寧にドラゴンに尋ねる。

 勝負に勝ったとはいえ、勝手に角を持って帰るわけにはいかないからな。


「その角はもう我の物ではない。好きにするがいい」


「ありがとうございます」


 ドラゴンの許可も得られたので、角を『マイホーム』の中に運び込む。


 長さが3メートルぐらいあるけど、何とか物置用の部屋に入れることが出来た。

 邪魔なので早めに換金することにしよう。


 最後に、気になっていたことを聞いておく。


「ドラゴンさん、切り落としてしまった角って、またいつか生えてきたりするのでしょうか?」


「我の角は10年もすれば、元通りになるであろう。それまでの間は、角無しのドラゴンとして過ごすことになるがな」


 俺は心の中で、ホッと胸を撫で下ろす。

 どうやらドラゴンの角は、鹿の角と同じようにまた生えてくるようだ。


 ということは、10年後にまた来れば角を採取できるかも?

 と一瞬思ったけど、さすがに家畜みたいな扱いをすると怒られそうなので、これは言わないでおこう。


「それじゃあドラゴンさん、俺達はこれで失礼します。ご協力ありがとうございました」


「ああ、さらばだ、強き人間達よ」


 ドラゴンに別れを告げ、俺達は来た道を下っていく。


「それじゃ、用事も終わったし王都に帰ろうか」


「うん。これで王女様の呪いも解けるね」


 後は王都に戻って国王に花を渡せば、依頼完了だ。

 俺は唯の手を握ると、王都に向けて歩みを速めた。

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