第21話 ドラゴンとの交渉
「お兄ちゃん、おはよう」
目覚めの瞬間、唇に柔らかい感覚。
『おはようのキス』だ。
俺も唯の唇に、おはようのキスを返した。
朝から幸せな気分になる。
今日は良い一日になりそうだ。
朝食はいつもより豪華な、唯特製のオムライスだった。
王都で買った明太子とチーズがたっぷりかかっていて、めちゃくちゃ美味い。
そして歯磨きとシャワーを済ませ、俺達は浄呪花の咲く山へと出発する。
「行ってきます」
唯が俺の唇を奪う。
甘酸っぱくて柔らかな、『行ってきますのキス』だ。
俺も唯を抱きしめ、そのキスに応えた。
キスを終えた後、俺は唯の手を握りながら言った。
「唯、今日はドラゴンとの戦いになるかもしれない、いつもより慎重にいこう」
「うん、わかった。気を引き締めていくね」
唯も真剣な表情で頷く。
いつもは無邪気な唯だが、気合を入れるべき時は、しっかりと気合が入る。
そんなギャップもまた可愛い。
俺達はお互いの手を繋ぎ、山道を慎重に登っていく。
ザックザックと砂利を踏みしめる足音だけが、山中に木霊していた。
3時間ほど歩いただろうか。
ついに俺達は、山頂近くの大きな湖に到着した。
「お兄ちゃん、あれが浄呪花だよ!」
唯が湖畔の岩場を指差す。
見ると、岩の隙間から紫色の花がひょっこりと顔を出していた。
「よし、さっそく採取しよう!」
俺が浄呪花に近づこうとした、その時だった。
ドンッ!!
突如、山々が震え、空が暗くなる。
そして、湖の上空に巨大な影が現れた。
「ドラゴンだ!」
鋼のように輝く鱗を身にまとった、全長20メートルはあろうかというドラゴンが、俺達の目の前に舞い降りてきた。
バサバサと羽ばたく音が、湖面に木霊する。
ドラゴンは鋭い眼光で俺達を見下ろし、地響きのような咆哮を上げた。
すごい迫力だ。
やっぱり浄呪花の採取依頼、断った方が良かったかも。
でも今更そんなことを言っても仕方ないので、唯と事前に決めておいた作戦その1を決行する。
「あの、ドラゴンさん。俺達は浄呪花を採取しに来た冒険者です。採取したらすぐに帰りますので、少しだけ浄呪花を採らせてもらえませんか?」
俺は丁寧に頭を下げて頼んでみた。
作戦その1『話せば分かる作戦』だ。
王城の図書室で調べた所によると、ドラゴンには知性があり、人間の言葉を話せるということだ。
だったら無駄な戦いは避け、話し合いで解決できるかもしれない。
「愚かな人間よ。我の縄張りに入った者は皆殺しにする。例外はない」
残念。言葉は通じたけど、気持ちは通じなかったようだ。
問答無用で皆殺しとか言われちゃったよ。
ドラゴンは口を大きく開け、鋭い牙をむき出しにする。
話し合いは無理そうな雰囲気だ。
「お兄ちゃん、どうしよう。戦うしかないのかな……」
心配そうに言う唯。
戦ったら俺達が勝つんだろうけど、お姫様1人の命を救うために、知性あるドラゴン1頭の命を奪うのは、何かすっきりしない。
できればドラゴンを殺さずに、浄呪花を採取したい。
「なら、俺達の方が強いことを証明できれば、浄呪花を採取してもいいですか? 例えば、もしあなたの角を折ることが出来れば、俺達の方が強いと認めてもらえますか?」
俺は再びドラゴンに語り掛けた。
作戦その2『力を見せつけろ作戦』だ。
これも王城の図書室にあった書物の受け売りだけど、ドラゴンは『強い物が偉い』という価値観を持っているらしい。
もしそれが本当なら、俺達の方が強いことを証明できれば、素直にドラゴンが従ってくれるはず。
「ふはははは! 面白いことを言う小僧だ! いいだろう、もし我の角を折ることが出来れば、好きなだけ浄呪花を採取することを許そう」
ドラゴンは自信満々に言い放った。
作戦成功だ!
どうやら本に書いてあったことは正しかったようだ。
しかしドラゴン本の作者は、一体どうやってドラゴンの価値観なんて調べたんだろうか?
なんて疑問も湧いてくるが、そんなことを考えている場合じゃないな。
ドラゴンが鋭い爪を地面に立てる。
いよいよ勝負開始だ。
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