第19話 謁見
翌日からの二日間、俺達は王都観光を満喫した。
荘厳なお城、美しいステンドグラスの大聖堂、そして迫力満点の大劇場。どこもかしこも、エルムデールの街とは比べ物にならないほどのスケールだった。
屋台やレストランでの食べ歩きも最高だった。
特に王都名物の肉まんは、日本でも行列ができそうなくらいの美味さだった。
そして三日目。
俺達が朝食後、部屋でのんびり過ごしていたところ、ドアをノックする音が響いた。
「失礼いたします。アキラ様、ユイ様、少しよろしいでしょうか」
聞き覚えのない声。
ドアを開けると、そこには宿屋の従業員らしき男が立っていた。
「どうかしましたか?」
「王宮からの使者の方がいらして、お二人にお会いしたいと申しております。いかがいたしましょうか」
……前にも同じような展開があったな。
確かこの前は、ヘレンさんがウサギ亭に来て、領主の館への招待状を持って来たんだったな。
ギルドマスターのオルダスさんは、俺達が王都に来たことを国王に伝えると言っていた。
ということは、やっぱりそういうことなんだろうなぁ。
「分かりました。使者の方はどちらに?」
「ロビーでお待ちです」
「分かりました。すぐに行きます」
俺と唯は顔を見合わせ、身支度を整えてロビーに向かった。
ロビーには、正装っぽい制服を着た男性が立っていた。
「アキラ様とユイ様でいらっしゃいますか?」
「はい、そうです」
「私は国王陛下の使者、エドワードと申します。本日は、陛下からの書状をお届けに上がりました」
そう言ってエドワードさんは恭しく頭を下げ、俺達に一通の封筒を手渡した。
俺は封筒を受け取り、中から手紙を取り出す。
手紙にはこう書かれていた。
『親愛なるアキラ様、ユイ様へ
先日、貴殿らが冒険者ギルドを通じて、我が国のために多大な貢献をしてくださったことを聞き及びました。
つきましては、貴殿らに直接感謝の意を表したく、この書状をしたためました。
貴殿らの都合の良い時に、ぜひ一度王城にお越しください。
心よりお待ちしております。
国王 ジョージ・フレデリック・グレイソーンより』
……これは驚いた。
都合の良い時に来てほしいとか書いてるぞ。
唯の方を見ると、唯もまた目を丸くして驚いている。
「お兄ちゃん、日時を指定して欲しいって書いてあるね」
「これはびっくりだな。トーマスさんの時も日時は指定だったのに、王様が俺達の都合に合わせるって言ってるぞ」
王様と言えば、大統領とか総理大臣みたいな立場だろう。
きっとスケジュールはぎっしり詰まっているはずだ。
俺達が日時を指定するということは、その日時に元々入っていた予定が何であれキャンセルすることになる。
もしかすると勇者を再起不能にした件が誇張されて伝わって、俺達はえらい短気で気難しい性格だと思われてるのかな……
俺達は気ままに観光してるだけなんだから、王様の都合に合わせても全然問題ないのに。
「唯、いつ王様に会いに行こうか」
「うーん。いつでもいいけど、明日って言ったら王様もきっと困るよね。3日後ぐらいがいいんじゃないかな」
「そうだな、じゃあ3日後の午前にしよう」
話がまとまったので、エドワードさんに伝える。
「それでは、3日後の朝に迎えに来てもらえますか?」
「かしこまりました。では3日後の朝にお迎えにあがります」
エドワードさんはそう言い、一礼して去っていった。
俺達はエドワードさんを見送ってから、部屋に戻った。
「お兄ちゃん、王様との面会、ちょっと緊張するね」
「別に俺達は王様の家来じゃないし、いつも通りでいいんじゃないか?」
「大丈夫かな~ 変なこと言って死刑とか言われたりしないかな~」
「あの弱っちい勇者に頼ってたぐらいなんだから、この国の騎士団に俺達をどうこうするような実力はないだろ。それに、何かあっても唯のことは絶対守るから安心していいぞ」
俺は唯の頭を優しく撫でながら、そう言った。
◇ ◇ ◇
そして3日後の朝、エドワードさんが宿屋まで迎えに来た。
俺達はエドワードさんに案内されるまま、王城に向けて出発する。
馬車に揺られること数十分、王城の正門が見えてきた。
立派な門をくぐり抜けると、そこには
観光で来た時は門の中に入れなかったので、近くで王城を見るのは初めてだ。
「すごーい! お兄ちゃん見て! すごい立派なお城だよ!」
唯が目を輝かせながら言う。
確かに、朝日に照らされた王城は美しくきらめいていた。
馬車は王城の玄関前で止まり、俺達は中に案内された。
長い廊下を歩いて行くと、やがて大きな扉の前に着いた。
「アキラ様、ユイ様、ここから先は国王の謁見の間になります」
エドワードさんが恭しく頭を下げる。
ちょっと緊張してきたな……
深呼吸して覚悟を決めると、俺達は扉を開けて中に入った。
そこは天井の高い広間だった。
正面には玉座が設えてあり、その上に髭をたくわえた立派な風格の男性が座っている。
「ようこそ、アキラ殿、ユイ殿。遠路はるばる、よく来てくれた」
その男性、おそらく国王のジョージ・フレデリック・グレイソーンが口を開いた。
「はじめまして、国王陛下。お招きいただき、ありがとうございます」
俺は深々と頭を下げた。
唯も続いて頭を下げる。
「君達の活躍はエルムデールの街のギルドマスターから報告を受けている。君たちの働きに感謝している」
エルムデールの街での活躍って、目立った働きは盗賊団の討伐くらいだけどね。
勇者と戦った件は、王国から見たら反逆行為みたいなもんだと思うし。
「また、勇者の件についても聞き及んでいる。勇者が君たちを殺そうとしたので、やむを得ず反撃したと報告を受けている。ただその結果、王国は魔王軍との戦いの切り札である勇者を失うことになってしまった」
国王は言葉を切ると、横にいる眼鏡の男に合図を送った。
「アキラ殿、ユイ殿。陛下はお二人に、勇者の後任を引き受け、魔王軍との戦いに参戦して頂きたいと願っておられます。いかがでしょうか」
眼鏡の男が、なんだかお堅い口調で言う。
たぶん宰相とかそういう立場の人だろう。
勇者の後任か、それって国王の指示のもと、いろいろ仕事をするってことだよな。
それはちょっと嫌かな……
「唯はどう思う。俺的には冒険者稼業の方が自由気ままに暮らせていいと思うんだけど」
「唯も冒険者の方がいいかな。勇者なんかになったら、お兄ちゃんと一緒にいられる時間が減るかもしれないし」
どうやら唯も同意見のようだ。
俺は宰相っぽい人に向かって言う。
「申し訳ありませんが、勇者の後任はお引き受けできません。俺達はあくまで一冒険者にすぎません。もし魔王軍が攻めてくるようなことがありましたら、冒険者ギルドに指名依頼を出して頂ければ、依頼内容と報酬次第で引き受けるかどうかを検討します」
俺の言葉に、国王は「うむ」と納得した様子で頷いた。
「そうか。無理強いはしない。魔王軍との戦いは予断を許さぬ。お前たちの力が必要になったら、ギルドに依頼を出そう」
勇者就任を断られることは想定していたのか、案外あっさりと俺達の主張は認められた。
こちらの都合に合わせて面談の日時を決めたことといい、どうやら俺達にかなり気を使っているようだ。
それだけ元勇者のドレイクがわがまま放題だったのかもしれないけど。
俺達は神様から『できれば魔王を倒して欲しい』と言われているので、もともと魔王軍との戦いには参戦してもいいと思っていたけど、せっかくなら指名依頼を出してもらって報酬をガッツリ頂くとしよう。
さて、用件は片付いたようだ。
ついでに聞きたかったことを聞いておこうか。
「そういえば、冒険者ギルドに花の採取のSランク依頼を出されてますよね。どうして国王が採取依頼を出しているのですか?」
「採取依頼を出した『浄呪花』は、どんな呪いも解ける解呪薬の材料になるのだ」
「呪いですか? 呪いのかかった凄い武器とかがあったりするんですか?」
「……解呪したいのは武器ではなく、儂の娘なのだ。娘のソフィアは魔王軍との戦闘中に石化の呪いを受けてな。その呪いを解くには浄呪花が必要なのだ」
国王は苦しそうな表情で言った。
石化の呪いか、そんなものがあるなら、俺達も気をつけないといけないな。
どんなに魔法防御力が高くても防げない呪いとかが、もしかしたらあるかもしれない。
「もしよかったら、ソフィアの様子を見ていってもらえるかな」
断るのもどうかと思ったので、俺達は石化した王女を見せてもらうことにした。
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