第14話 領主との面談

 盗賊団討伐の5日後、予告通りに馬車のお迎えがやって来た。

 俺と唯は、ヘレンさんに案内されるまま、馬車に乗り込む。


「わぁ、お兄ちゃん、この馬車すっごく豪華だよ! 座席もふかふかだし、飾りも綺麗!」


 唯が目をキラキラさせて馬車の内装を見回す。

 さすが領主の馬車、装飾がゴージャスだ。


「盗賊退治の時のボロい馬車とは大違いだな」


「えへへ、なんだかお姫様になったみたいだね」


 上機嫌な唯に、俺も思わず笑みがこぼれる。


「お二人に満足頂けたようで、良かったです」


「ええ、ありがとうございます」


 ヘレンさんの言葉に頷きながら、俺達は豪華な馬車での短い旅を思う存分楽しむことにした。


    ◇    ◇    ◇


「わぁ、お兄ちゃん、見て! あのお城みたいなのが領主様のお家なのかな?」


 領主の館が見えてきた。

 とても広大な敷地に、お城のように豪華な洋館が建っている。


「あれだけ立派なお屋敷なら、間違いないだろうな」


 個人で住むにはちょっと大きすぎるので、自宅兼役所なのだろう。

 日本風に考えると、都道府県庁に知事が住んでいるようなものか。


 馬車は、洋館の玄関前で止まった。

 ヘレンさんに案内されるまま、俺達は洋館の中へと足を踏み入れる。


「すごーい! お家の中なのに、天井が高くて、シャンデリアがキラキラしてる!」


 唯の歓声が、広い玄関ホールに木霊する。

 大理石の床に、ヨーロッパ調の調度品の数々。

 なんかもう。ザ・豪邸って感じだ。


 ヘレンさんに案内され、俺達は洋館の中を見学させてもらった。

 絵画や彫刻がたくさん飾られていて、美術館みたいだ。

 芸術的な価値は全然分からないけど、綺麗だとは思うぞ。うん。


 しばらくして、ヘレンさんに案内されて応接室に通される。

 ドアが開くと同時に、華やかな香りが漂ってきた。


「わぁ、いい匂い…… お花がいっぱいだね、お兄ちゃん」


 唯の言う通り、応接室には色とりどりの花が飾られている。

 その中央に、革張りのソファーとテーブルが置かれていた。


「どうぞ、お掛けになってお待ちください。領主様が間もなくいらっしゃいます」


 ヘレンさんにそう言われ、俺達はソファーに腰掛ける。

 テーブルの上には、優雅な陶器のティーセットが用意されていて、すでに紅茶が入れられているようだ。


 俺達は遠慮なく紅茶を飲みながら、席に座って領主が来るのを待った。


    ◇    ◇    ◇


 しばらくすると、応接室のドアがノックされた。

 ヘレンさんが開けたドアから、知らないおじさんと、シャーロットと、ブラッドリーさんが入ってくる。


「アキラ様、ユイ様、お待たせしました。こちらトーマス様、シャーロット様、ブラッドリー様でございます」


 ヘレンさんの紹介で、俺達は立ち上がり、3人に向かって一礼した。


 知らないおじさんがたぶん領主なんだろう。

 高そうな服を着てるし。


「初めまして、トーマス様。私はアキラ・スズキと申します。こちらは妹のユイ・スズキです。本日はご招待いただき、ありがとうございます」


 まるで英語の教科書のような挨拶をした俺に、トーマスさんは笑顔で応える。


「ようこそ、アキラ君にユイ君。私はトーマス・ハミルトン。この街の領主をしている」


 やっぱりおじさんが領主だったようだ。

 にこやかに挨拶するトーマスさんの隣で、シャーロットが一歩前に出る。


「私はシャーロット・ハミルトン。ハミルトン家の一人娘ですわ。先日はお世話になりました」


「やっぱりそうだったんだね。何となくそんな気がしてたよ」


 俺は正直に答える。

 唯も横で「シャーロット、すごくお嬢様っぽかったもんね」と笑顔で言う。


 トーマスさんは娘を優しく見守りながら、再び俺達に向き直った。


「まぁまずは座ってくれ。ゆっくり話をしようじゃないか」


 そう言ってトーマスさんが手を広げると、一同はソファに腰を下ろした。


 トーマスさんとシャーロット、ブラッドリーさんが俺達の向かいの席に座り、ヘレンさんがお茶を注いでくれる。


「盗賊団の討伐、見事であった。シャーロットとヘレンから、2人だけで盗賊団を圧倒したと聞いているぞ」


「ありがとうございます。盗賊団を圧倒できたのは、たぶん相手がそんなに強くなかったからだと思いますけど」


「そんなことは無いぞ、盗賊団のボスはレベル20台だったと聞いている。普通のCランク冒険者が勝てる相手じゃないだろう」


「ご存じかと思いますが、私達はレベル99なので、普通のCランク冒険者よりは強いんだと思います。実際どれだけ強いのかは自分でもよく分かっていないのですが……」


 素直に思ったことを言うと、シャーロットが補足してくれる。


「これまでレベルは最大50と言われていましたわ。それなのにレベル99の冒険者が現れたなんてブラッドリーから報告が来ましたから、最初は誤報かと思いましたわ」


「やっぱりシャーロットはレベル99の冒険者が気になったから、盗賊討伐について来たの?」


「その通りですわ。やはり自分の目で確認するのが一番ですものね」


 領主の一人娘なのに、ずいぶんと自由なことをするんだな。

 それを許しているトーマスさんは、きっといい人なんだろう。


 そんなことを考えていると、トーマスさんがブラッドリーさんに話しかける。


「今回の討伐で、ランクアップの実績としては十分なんじゃないか」


「そうですね。十分な実績だと思います」


 ブラッドリーさんが俺達の方を向いて話す。


「これまで数か月の実績と、今回の討伐の実績を考慮して、アキラとユイをBランク冒険者に認定する。Bランクのギルドカードを今度ギルドまで取りに来てくれ」


「ありがとうございます。Bランクの依頼が受けられるようになって助かります」


 これまでは常設依頼のゴブリン討伐、オーク討伐ばかりしていたが、Bランクになれば時々出てくるオーガ討伐の依頼も受けられる。

 きっとこれまで以上に収入が増えるだろう。


 その後はしばらく、たわいのない話が続いた。

 トーマスさんがこの領地を治めてきた歴史や、シャーロットがどんな風に育ったかなど、家族のことも聞かせてくれた。

 シャーロットは父親の話を聞くたびに、頬を赤らめて照れているのが微笑ましかった。


 そんな感じで30分ほど、俺達は和やかな雰囲気の中で会話を楽しんだあと、お土産をもらってウサギ亭に帰った。


 お土産はクッキーだった。

 久しぶりに食べる甘いお菓子は、とても美味しかった。


 Bランクになって収入も増えるだろうし、時々はお菓子を買ってもいいかもしれない。唯も喜ぶだろうし。


 でも異世界のお菓子、というか砂糖って異常に高いんだよな。

 魔王を倒した後は、サトウキビ農家とかになったら儲かるかも?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る