第13話 シャーロット、鈴木兄妹を語る

 盗賊討伐から帰還したその日、シャーロットは執務室を出る明と唯を見送った後、ギルドマスターのブラッドリーに向かって話し始めた。


「ブラッドリーさん、今回の盗賊退治で、アキラとユイの実力は本物だということが分かりましたわ。レベル99という数字に偽りはありませんでしたわね」


「盗賊のボスはかなりの強者だったはずだが、どんな戦いだったんだ」


「直接戦っているところは見れませんでしたが、ジェシカの話では、盗賊達は何もできず一方的な戦いだったそうですわ」


「まぁ、あいつらならそうなるだろうな」


「それに、アキラとユイは善良な心の持ち主のようですわ。盗賊を殺さないよう、剣ではなく鉄の棒を持って盗賊と戦っていましたの」


「アキラは依頼を受ける時に『手加減できそうなら生け捕りにする』って言ってたが、楽勝だったんだろうな。あいつらならSランクのモンスター相手でも手加減して勝てそうな気がするが」


 確かにそうですわね。

 Sランクのモンスターを倒すには、勇者のようなレベル40以上の強者が必要と言われていますけれど、アキラとユイはレベル99ですものね。


 シャーロットは真剣な表情になり、ブラッドリーに言った。


「アキラとユイには、この街に留まってもらいたいですわ。このエルムデールの平和と発展のためにも、あの2人の力は必要だと思いますの」


「分かった。あの2人がこの街に居心地の良さを感じられるよう、出来る限りのことはしよう。あいつら向きの依頼が来たら伝えるようにするし、ウサギ亭の部屋の確保も続ける」


 話が終わると、シャーロットとヘレンは冒険者ギルドを出て、裏手に待たせていた馬車に乗り込んだ。

 馬車は優雅に街を駆け抜け、シャーロットの自宅である領主の館に向かった。


 館に到着し、入浴して一息ついてから、シャーロットは父親であるトーマス・ハミルトン伯爵の部屋に向かった。

 トーマスはシャーロットの顔を見ると、にこやかに微笑んだ。


「おかえり、シャーロット。無事で良かった」


「ただいま、お父様。ヘレンが一緒なのですから、無事に決まっていますわ」


 万が一アキラとユイが盗賊団に敗れた場合は、ヘレンの護衛で街まで逃げ帰る計画でしたが、心配は不要でしたわね。


「それもそうだな。ところで、レベル99の冒険者の兄妹はどうだった?」


 トーマスが興味深そうに尋ねる。


「ええ、あの2人は本当に素晴らしかったですわ!」


 シャーロットが目を輝かせて言う。


「盗賊退治、あっという間に片付けてしまうんですもの。あの2人の実力は本物ですわ」


「ほう、そうなのか」


「それに、あの2人は仲が良くて、とってもラブラブなんですのよ。道中ずっと手を繋いで歩いていましたわ」


「ははは、若いっていいなぁ。ギルドマスターからの報告通りだったようだな。勇者のような傲慢な性格じゃなくて良かった」


 勇者の我儘っぷりには陛下も悩まされていると聞きます。

 圧倒的な強者ゆえに性格が歪んでしまったのかもしれませんが、あの2人ならそのような心配は無さそうですわね。


「アキラとユイなら、勇者のようになる心配はありませんわ。この街に定住してもらえるように、出来ることは何でもした方が良いですわ」


「定住となると、盗賊討伐の褒美に家でも与えるか?」


「2人は宿屋に泊っていますが、宿屋の部屋ではなく『マイホーム』の中で寝ているそうですの。ですから家を貰っても管理が面倒だと言い出しそうですわね」


「ギルドマスターからの報告にもあった『マイホーム』のスキルか…… 入れてもらえたのか?」


「入れてもらおうとしましたけど、『マイホーム』の回りには見えない壁があって、アキラとユイだけしか入れないようになっていましたの。ですから中には入れなかったけど、とても豪華で、最高の家具がそろった家だそうですわ」


「となると、2人に定住してもらうには何をするのが有効だろうか?」


「普通に、2人が住み続けたいと思うような街にするのが一番だと思いますわ。治安が良くて、活気がある街にすれば、きっと住み続けたいと思うはずですわ」


「それもそうだな」


「お父様、ぜひあの2人をお招きになって、お話されてはいかがですか? きっとお父様なら、あの2人ともすぐに打ち解けられると思いますわ」


「そうだな。ぜひアキラ君とユイ君を招待して、ゆっくり話をしてみたいものだ。シャーロットの言う通り、あの2人とは友好関係を築いておくべきだろう」


「ありがとうございます、お父様!」


 シャーロットは嬉しそうに微笑んだ。


 こうしてシャーロットとトーマスは、アキラとユイを領主の館に招待することを決めたのだった。


 シャーロットはワクワクしながら、アキラとユイとの再会を心待ちにしていた。

 あの2人とまた一緒の時間を過ごせるなんて、なんて楽しみなことでしょう。


 シャーロットはそんな想いを胸に、招待の準備を始めるのだった。

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