第12話 街に戻って
俺達は特にトラブルも無く、エルムデールの街に到着した。
(体力のないジェシカは、俺と唯がおんぶしたり肩車したりして歩いた)
街の入口で、衛兵さんに盗賊達とジェシカを引き渡し、別れを告げた。
シャーロットとヘレンさんと一緒に、冒険者ギルドに向かう。
ギルドに到着し、受付のお姉さんに依頼完了を報告すると、ギルドマスターの執務室に案内された。
俺達は部屋に入ると、ブラッドリーさんに一礼した。
「盗賊団の討伐、無事完了しました。盗賊は全員捕まえて衛兵さんに引き渡しました。あと、ジェシカという女の子が盗賊団に捕まっていたので救出しました」
「よくやった。救出した女の子はどうしたんだ?」
「衛兵さん達に任せました。今頃は親御さんの所に帰っていると思います」
「そうか。衛兵達は全員無事か?」
「はい。死者も負傷者もゼロです」
「さすがだな。ではこれで依頼完了ということでいいよな?」
ブラッドリーさんがヘレンさんの方を向いて言った。
ヘレンさんは頷き、
「はい。依頼完了をこの目で確認しました。領主様に報告しておきます」
と応えた。
やっぱりこの人、ただの道案内じゃなかったね。そうだと思ってたけど。
「それじゃ、俺達はもう帰って大丈夫ですか?」
「ああ、ご苦労だった。報酬を受け取ってくれ」
ブラッドリーさんは机の引き出しから袋を取り出し、俺に手渡した。
中を確認すると、確かに金貨が5枚入っていた。
たった数日で約500万円の収入か……
高ランクの依頼って儲かるんだな。
シャーロットとヘレンさんはブラッドリーさんとまだ話があるようなので、俺と唯はお先に執務室を後にした。
ギルドを出た後、俺達はいつものウサギ亭に向かって歩き出した。
「今回の依頼、ずいぶんとあっさり片付いたな」
「そうだね。Bランクの依頼ぐらいなら、あんまり危なくないのかな?」
「盗賊団のボスのステータスを調べたらレベル23だったし、もうちょっと上のAランクの依頼とかでも大丈夫そうだな。油断はできないけど」
「でもその前に冒険者ランクを上げなきゃだよね」
「そうだな、今のままじゃCランクまでの依頼しか受けられないもんな。地道に実績を積み重ねて、まずはBランクを目指そう」
そんな話をしながら、俺達はウサギ亭に到着した。
「いらっしゃい。無事で良かったね。部屋は空いてるから、好きなだけ泊っていいよ」
そう言ってウサギ亭のおばちゃんは鍵を渡してくれた。
人気の宿のはずなのに、なぜか俺達がいつも使っている部屋は空いているのが不思議だ。
もしかしたら俺達の為に空けておいてくれてるのかな?
いやさすがにそれは無いか。
そんなことをしたら売上が減ってしまうだろうしな。
俺達は2階の客室に入り、鍵を閉めるとすぐにマイホームのスキルを使った。
シャワーで汗を流した後、いつものように寝室のベッドに腰掛けると、唯が甘えるような声で言った。
「ねぇお兄ちゃん。今回の依頼、唯、頑張ったと思うの」
「うん。唯は今回も大活躍だったぞ。本当にすごかった」
俺は唯の頭を優しく撫でる。
唯は嬉しそうに目を細めた。
「そういえば唯、今回の報酬でまとまったお金が入ったから、明日は前に唯が欲しがってた服を買いに行こうか」
「本当に!? やったぁ! お兄ちゃん大好き!」
唯が目を輝かせて、俺の腕に抱きついてくる。
いつものことだけど、たまらなく可愛い。
「お兄ちゃんとのお買い物デート、楽しみ! 可愛い服でお兄ちゃんをノーサツしちゃうよ!」
「どんな服を選ぶのか楽しみだな。唯はどんな服を着ても可愛いと思うけど」
「もう、お兄ちゃんったら~」
そう言いながら、唯はさらに俺に抱きついてきた。
「明日が楽しみだな、唯」
「うん! 最高に楽しみ!」
唯とのデートは、いつでも、どこでも、何回しても楽しみだな。
そんなことを思いながら、俺は唯を抱きしめるのだった。
◇ ◇ ◇
翌朝、俺達は朝食を済ませると、以前デートで訪れた高級な服屋『麗衣堂』を訪れた。
前回はお金がなかったのでウィンドウショッピングだけだったけど、今回の俺達はちょっとリッチだ。
今度こそエルムデールの街に馴染んだ服を買って、もっと現地に溶け込めるようになろう。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなお召し物をお探しでしょうか」
入り口で優雅な店員さんに出迎えられる。
俺達の学生服姿を見て、少し驚いた表情を浮かべていたが、すぐにプロの笑顔を取り戻した。
「妹と私の普段着を探しに来ました。いろいろ見させてください」
俺がそう言うと、店員さんは唯と俺を交互に眺めてから、にっこりと微笑んだ。
「かしこまりました。では女性物はこちらへ、男性物はそちらになります」
奥へと案内された先には、パステルカラーの可愛らしいデザインの服と、落ち着いた色合いのシックな男性服がずらりと並んでいた。
唯の目がきらきらと輝く。
「お兄ちゃん見て! この水色のワンピース、すっごく可愛い! あとこのレースのチュニックとか、フリルのスカートとか…… 全部試着してみたいな」
「じゃあ全部試着してみようか。俺はこっちで服を選んでるから、試着したら俺に見せてくれ」
「うん、わかった!」
それから唯は『これが可愛い』『こっちも可愛い』と店内を飛び回り、試着をしまくる。
試着のたびに感想を求められるので、俺は『可愛い』『似合う』『こっちの色の方がいい』『ちょっと唯には合わないかも』など素直な感想で応じる。
唯はいつも俺の好みを気にするので、正直に感想を言う必要があるのだ。
逆に俺の服は、唯の好みに合わせて選んでいる。
というか、唯がいつも俺の服を選んでくれる。
俺が自分で服を選んだら、地味~な服ばかりになってしまうから……
散々服選びを楽しんだ末に、俺と唯は1着ずつの服を買い、笑顔で店を後にした。
◇ ◇ ◇
麗衣堂を出た俺達は街をブラブラ散策した後、ウサギ亭に戻ってきた。
「おかえり。今日も2人でデートだったみたいだね。楽しかったかい?」
ウサギ亭のおばちゃんが、今日も笑顔で出迎えてくれる。
「今日も楽しかったです! すっごく可愛い服が買えました!」
「そうかい。良かったねぇ。 ……ああ、そうだ。ユイちゃん、さっきメイドさんが来てね、アキラくんとユイちゃんに用があるから、戻ったら教えて欲しいって」
そう言ってからおばちゃんは、食堂の奥を指差した。
指差した方を見ると、メイド服を身に着けたヘレンさんが、食堂で紅茶を飲みながら優雅に本を読んでいる。
すごく場違いな感じ。
「ヘレンさん、お待たせしました。俺達に何か御用でしょうか?」
「あらアキラさんにユイさん。お帰りなさい。今日はこちらをお持ちしました」
そう言ってヘレンさんは、高級そうな封筒をテーブルの上に置いた。
手に取ってみると、『スズキアキラ様』『スズキユイ様』と、俺達の名前が書かれている。
「これは何のお手紙でしょうか?」
「領主様が、先日の盗賊団討伐のお礼を直接言いたいと仰っています。これはその招待状です」
「……普通にギルドの依頼をこなしただけなのに、どうして領主様がわざわざ俺達にお礼を?」
「それは分かりませんが、領主様がアキラさんとユイさんに会いたがっているのは間違いないかと」
レベル99の新人がいるって報告されたらしいし、やっぱり一度どんな奴らなのか見ておきたいってことなのかな。
めんどくさいけど、断ったらもっとめんどくさいことになるんだろうな……
「唯、招待に応じていいかな?」
「うん。いいよ。貴族の館ってどんな所なのか、ちょっと楽しみだし」
確かに、ちょっと見てみたいな。
無駄に豪華で、変な石像とかあったりするのかな。
俺はヘレンさんに応える。
「わかりました。招待に応じます。いつ伺えば良いのでしょうか?」
「5日後でお願いします。馬車で迎えに来ますので、この宿屋にいてもらえれば大丈夫です」
庶民派の宿屋に領主の馬車が来たら目立つだろうな……
まぁ目立つのは今更だから、気にしても仕方ないか。
そんな理由で、俺達は領主の館に行くことになったのだった。
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