第11話 盗賊団との戦い

 翌朝、俺達は皆で朝食を取った後、盗賊団のアジトに向けて出発した。

 ここからは山道になるので、徒歩での移動になる。

 (馬車の見張りで、衛兵さん3名はお留守番だ)


 ヘレンさんの案内で、山道を3時間ほど歩き続けると、険しい岩山が見えてきた。


 「盗賊団のアジトはあの岩山の中にある洞窟のようですね」


 ヘレンさんが岩山を指差しながら言った。


 「分かりました。アジトに近づいたら、俺と唯が中に突入します。衛兵さん達は外に待機していてください」

 俺はそう提案し、一同の同意を得た。


 岩山のふもとまでやってきた俺達は、岩陰に身を隠し、周囲の様子を確認した。

 洞窟の入り口には、2人の盗賊らしき男が見張りをしている。


 俺は唯に声をかける。


「それじゃ作戦通り、まずは本当に奴らが盗賊団かどうか確かめよう」


「うん。人違いだったら大変だもんね」


 俺達はバールを手に持ち、隠れもせず堂々と洞窟に向かって歩みを進める。

 あ、見張りが気付いたようだ。


「お前達、何をしてるんだ!」


「あの、すみません。私はこの辺りで盗賊団に襲われた商人なのですが、盗賊団のボスに直接話がしたくて。ここがその盗賊団のアジトだと聞いたのですが……」


「何だと? お前、何を言ってやがる。俺達がそんなガキをボスに会わせるわけねえだろ! とっとと失せな!」


 見張りの盗賊は威圧的に言い放った。


 どうやらこいつらは盗賊団で間違いなさそうだ。

 俺達は止まらず、見張りに向かってどんどん前進する。


「お願いします! どうしてもボスに会って話がしたいんです!」


「止まれ! それ以上近づいたらぶっ殺すぞ!」


「残念。ぶっ殺されるのはお前達だ!」


 俺は一気に見張りとの距離を縮めて、バールで盗賊の両膝を砕く。

 同時に唯も、もう一人の盗賊の膝を狙い撃ちする。


「ぎゃああああ!」

「ぐわああああ!」


 2人の盗賊が絶叫を上げて、地面に崩れ落ちた。


 俺は倒れた盗賊の頭部に容赦なく蹴りを入れた。

 これで完全に気絶したはずだ。


「お兄ちゃん、やったね!」


 唯が俺の腕に抱きついてくる。


「唯の攻撃も良かったぞ。じゃあ、中に入ろう」


 俺は唯の頭を撫でながらそう言うと、洞窟の奥へと進んでいった。


 やがて、洞窟の奥から明かりが漏れてくるのが見えた。

 盗賊団のアジトに違いない。


 俺達がゆっくりと明かりに近づいていくと、中から賑やかな声が聞こえてきた。

 盗賊団は酒盛りでもしているのか、かなり大勢の声がする。

 人数は10人ぐらいか。


「唯、俺から突っ込むから、その後に続いてくれ。いくぞ」


「うん。わかった」


 意を決した俺は、一気にアジトの中へと飛び込んだ。


「誰だ!?」


「何者だ!?」


 俺の突然の乱入に、盗賊たちが一斉に立ち上がる。

 が、彼らが反応する間もなく、俺の攻撃が始まっていた。


 バールを振るって次々を盗賊の膝を砕いていき、倒れた盗賊の頭を蹴り飛ばして気絶させていく。

 そこへ唯も加勢に入り、ストーンショットの魔法で残りの盗賊の膝を次々に砕いていく。


 俺達の連携は完璧だった。

 息の合った連携で、あっという間に盗賊団を制圧していく。


「くそっ、一体何者だ……」


「化け物め……」


 盗賊たちは恐怖に目を剥きながら、次々と俺達の前に倒れていった。


 残るは、ボスっぽい男と、その隣にいる小学生くらいに見える女の子だけだ。

 (女の子は手足を縛られているので、盗賊団の一味じゃなさそうだけど)


「残るはお前だけだな。降伏するか?」


「ち、近づくんじゃねぇ! このガキがどうなってもいいのか!」


 ボスが女の子に剣を突き付ける。


 が、脅しを無視して俺はボスに一気に接近し、バールでボスの剣を弾き飛ばす。

 そして両膝も破壊してから、ボスを気絶させた。


 これにて盗賊団は全滅となった。


「よーし唯、これでコンプリートだな」


「ずいぶんとあっけなかったね。私達の動きに誰もついて来れなかったみたい」


「やっぱりレベル差が大きいのかな。あとでこのボスのレベルを調べてみよう」


 それじゃ衛兵さん達を呼んで、盗賊たちを逮捕してもらおうか。


 衛兵さんを呼びに行くため、洞窟に入口に向かおうとしたところ、後ろから声がかかった。


「あの…… わたしは助かったの?」


 あ、人質の女の子のことを忘れてた。


「ああ、もう大丈夫だよ。君はどうしてこんな所にいたの?」


「街を歩いてたら、こいつらにさらわれたの」


 この盗賊団、強盗だけじゃなく誘拐もやってたのか。


 女の子に話を聞くと、名前はジェシカといい、エルムデールの街の商人の娘だということだった。

 ジェシカを縛っていたロープをナイフで切断してから、一緒に洞窟の外に向かった。


 洞窟の外に出て、衛兵さん達に手を振って制圧完了の合図を行う。


 しばらくすると、衛兵さん達と、シャーロットとヘレンさんが到着した。

 シャーロットが口を開く。


「この女の子は誰? 盗賊の娘?」


「いや、盗賊に誘拐された女の子らしい。とりあえずギルドにつれて行こうと思う」


「分かったわ。盗賊はどうなったの。皆殺しかしら」


「弱かったから、全員生け捕りにしたよ。膝を砕いて動けなくしてから、気絶させてある」


「……どうやったらそんな器用なことができるのよ」


「みんな動きが遅かったから、このバールで軽く叩いただけだよ」


「軽く叩いた、ねえ」


 シャーロットと雑談している間にも、衛兵さん達はテキパキと盗賊達の武装を解除し、縄で縛っていく。

 あっという間に全員を縛り上げてくれた。


 あとは、盗賊団といえばお宝だな!


「ヘレンさん、盗賊団からお宝とかを取り返した場合、誰のものになるんですか?」


「持ち主がいれば持ち主に返却。いなければ領主のものになりますね」


「それは残念。領主の物になるんだって、いいなぁー」


 とシャーロットの方を見て言ってみるが、無視された。

 あくまでただの道案内だと主張するらしい。

 どう見ても領主の関係者だと思うんだけどね。


    ◇    ◇    ◇


 その後、盗賊団のアジトを捜索したところ、結構な数の金貨が見つかったので、漏れなく回収した。

 後は盗賊達を街まで連行したら依頼完了だ。


 まずは、馬車を停めている所まで盗賊を連行しないとな。

 衛兵さんに連行をお願いしよう。


「すみません。この盗賊達を馬車を停めている所まで連行してもらえますか?」


 すると、衛兵さんは困った顔をした。


「……盗賊は全員、膝を砕かれて歩けないようなんだが」


 おっとそうだった。

 でもヒールの魔法で治療して、後から逃げ出されたら面倒だな~

 何かいい方法は無いだろうか。


「私、良い考えがあるよ!」


 唯が元気よく手をあげる。


「アースウォールの魔法でおっきい箱を作って、盗賊を入れて運んだらどうかな?」


「アースウォールってそんな器用なことができるのか?」


「うん。できると思うよ。やってみるね」


 唯は大地に手をかざし、アースウォールの魔法を放った。

 すると、土が盛り上がり、長方形の箱のような形になっていく。


 土とはいえ、唯の超魔力で固められた土なので、鉄よりもずっと固そうだ。

 乗り心地は最悪だろうけど、俺が引っ張れば馬車まで問題なく連行できるだろう。


「衛兵の皆さ~ん。この箱に盗賊を積み込んで下さ~い」


「わ、分かりました……」


 衛兵さん達は呆気にとられた様子だったが、気を取り直して箱の中にどんどん盗賊を積み込んでくれる。

 盗賊達は無抵抗で、ただ呻き声を上げるだけだった。


 俺と唯も手伝い、ほどなく盗賊達を積み終わる。


「じゃあ、俺が引っ張っていくよ。唯、リヤカーみたいな持ち手を作って」


「はーい」


 唯が再びアースウォールの魔法を使うと、リヤカーの持ち手の部分が出来上がった。


 俺はリヤカーの持ち手の部分を引く。

 うん。レベル99の馬鹿力にかかれば、盗賊10人と土の塊を運ぶくらい大したことじゃないな。


 俺はリヤカーを引き、馬車を停めていた所に向けて歩き始めた。


 道中、シャーロットが話しかけてくる。


「アキラ、それ重くありませんの?」


「盗賊11人分だから結構重そうだけど、意外と軽く感じるんだよな。たぶん体力があるからだと思う」


「体力があるって次元ではありませんわよ。アキラもユイも、本当に規格外ですわね」


 一応俺達、神様に『できれば魔王を倒して欲しい』って言われてる身だからな。

 盗賊の11人も引っ張れないようでは、魔王は倒せないってことなんだろう。

 たぶん。


 そんな話をしながら、俺達は3時間ほど歩き続けて、馬車を停めていた場所に到着した。


 リヤカーの荷台から盗賊達を下ろし、今後は馬車に盗賊を乗せていく。

 盗賊達は馬車にしっかりと縛り付けられ、逃げ出す心配はなさそうだ。


 盗賊で馬車が満杯になったので、俺達は歩きになる。

 何だか立場が逆のような気がするけど、盗賊は歩けないんだから仕方ない。


 こうして俺達は、エルムデールの街まで盗賊達を連行するのだった。

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