第10話 指名依頼

 それから俺達は、スキルレベルの向上を目指してゴブリン討伐とオーク討伐の依頼を受け続けた。

 2日働いて1日休むというのんびりとしたペースだったけど、4か月ほど続けたところ、俺は剣術のスキルレベルが3になった。

 唯は火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、光魔法のスキルレベルが3になり、剣術のスキルレベルも1になった。


 お金も結構貯まったので、2人とも鋼の剣を買った。

 また、いつでもステータスが見れるように、ステータスストーンも買った。


 そして今日もいつも通りウサギ亭の食堂で朝食を取っていたところ、いつも通りでない客がやって来た。

 冒険者ギルドの事務員見習いの少年だ。


「アキラさん、ユイさん。朝からすみませんが、冒険者ギルドまで来て頂けますでしょうか。ギルドマスターからお話があるようでして」


「はい。いいですけど一体何事ですか?」


「すみません。内容は聞いてないんです」


 うーん何だろ。

 面倒な話じゃなければいいんだけど。


 でもまぁ、ブラッドリーさんからの呼び出しなら、行くしかないよな。


「分かりました。朝食が終わったらギルドに向かいます」


 それから俺達は朝食をしっかり食べ、マイホームで歯磨きをしてから冒険者ギルドに向かった。


    ◇    ◇    ◇


 冒険者ギルドに到着すると、すぐにギルドマスターの執務室に案内された。


 俺達が執務室に入ると、ブラッドリーさんは立ち上がって俺達を出迎えた。


「よく来たな。まあ座ってくれ」


 ブラッドリーさんに促されるまま、俺達は執務室の一角に置かれた、革張りのソファーに腰を下ろした。

 ブラッドリーさんも俺達の向かいの椅子に座ると、じっと俺達を見つめた。


「まずはこれを見てほしい」


「これは…… 依頼書ですね」


「簡単に言うと、盗賊退治だ。最近この辺りで盗賊団が悪さをしていてな。領主様も見過ごせないと判断したようだ」


 依頼書には、荷馬車への襲撃を繰り返している盗賊団を壊滅させて欲しいと書かれている。

 盗賊の生死は問わず、難易度はBランクで、報酬は金貨5枚らしい。


 ん? 難易度Bランク? 俺達はまだCランクだから、この依頼は受けられないんじゃないか?


「これはBランク依頼なので、俺たちでは受けられないんじゃないですか?」


「普通ならそうだが、今回は領主様からの指名依頼だから、ランクに関係なく依頼を受けることができるんだ」


「領主様からの指名依頼? 俺達、領主様と何の面識も無いですけど……」


「そりゃ俺が領主様に『レベル99のルーキーが現れた』って報告したからに決まってるだろ」


 いや決まってるって言われても……

 日本と違って、個人情報が保護されたりはしないようだ。


「俺達が指名された理由は分かりましたけど、盗賊退治は普通、騎士団がするものなのでは?」


「今、騎士団の大半は魔王軍との戦争に駆り出されてるからな。今頃は勇者の野郎と一緒に戦場にいるんじゃねえか」


「勇者!? 勇者がいるんですか? 勇者はやっぱり強いんですか?」


 勇者がいるなら、ぜひ俺達の代わりに魔王を倒して欲しい。


「勇者はレベル42で、滅茶苦茶強いらしいぜ。ただ性格は最悪らしい」


「性格の悪い勇者が、魔王と刺し違えてくれたら世界が平和になりそうですね」


「ぶっはははは! 違ぇねえな!」


 俺の言葉に、ブラッドリーさんは豪快に笑い出した。


 でもレベル42じゃ魔王と刺し違えるのは厳しいかもしれないな。

 大昔に魔王を倒した勇者はレベル50だったって話だし。


「そういうわけで、この依頼をお前たちに受けてほしいんだ」


 再びブラッドリーさんがずいっと依頼の紙を差し出す。

 うーん。いくら悪人相手でも、人間同士の戦いは抵抗があるなぁ。


「盗賊のアジトは分かっているんですか? それに討伐後に街まで連行する方法はどうするんです?」


「盗賊のアジトは判明しているから、道案内を同行させる。連行要員としては衛兵を10人程と馬車をつけるつもりだ。その点は安心してくれ」


「衛兵が10人もいるなら、衛兵達で盗賊退治すればいいんじゃないですか?」


「衛兵は戦闘の素人だから戦うのは無理だ。盗賊退治はあくまでお前達にやってもらいたい」


 まぁ、お巡りさんが戦闘のプロなわけないよね。

 冒険者ギルドにはお世話になってるし、俺達がやるしかないのかな……


「唯、この依頼、引き受けていいかな」


 唯はちょっと考えてから、こくりと頷いた。


「そこまで言われたらしょうがないよね。やろう」


 唯もいいと言ってるし、仕方ないので引き受けることにするか。


「分かりました。引き受けます」


「よく言った! それじゃ手続きをするから、2日後の朝に出発で頼むわ」


「はい。分かりました」


 俺達は依頼を引き受け、執務室を出た。


 何だか成り行きで盗賊退治の依頼を引き受けることになってしまったが、引き受けたからにはしっかり仕事をこなさないとな。

 そのためにも今日と明日はゆっくり休んで、英気を養うことにした。


    ◇    ◇    ◇


 盗賊団討伐の当日の朝、俺達は集合場所である街の東門に向かった。


 どうやら俺達が最後だったようで、俺達以外のメンバーは既に揃っているようだ。

 ブラッドリーさんに、衛兵が10人ほどに、真っ白で高級そうな装備に身を包んだ俺達と同年代っぽい美少女に、メイド服を着た長身で目つきの鋭いお姉さんに……

 って何か変なのか混じってるんですけど!?


「ブラッドリーさん、あちらの2人は一体……」


「あの2人は道案内だ」


「どう見てもお嬢様とそのメイドにしか見えないのですが……」


「領主様が派遣してくださった道案内のお嬢様と道案内のメイドだ。そう理解してくれ」


「……分かりました。ちゃんと道案内はしてもらえるんですよね?」


「ああ。メイドがちゃんと道案内してくれるはずだ」


 どう見ても普通じゃない道案内だけど、気にしても仕方ないか。

 領主からの指名依頼だし、監視役とかなのかな?


 俺はお嬢様っぽい少女に声をかける。


「初めまして。私が鈴木明。こちらが妹の鈴木唯です。盗賊団の討伐依頼を引き受けた者です」


「あなたたちがレベル99の姉妹ね。私はシャーロット。こちらのメイドがヘレンよ。2人であなたたちの道案内をしてさしあげるわ」


「ヘレンと申します。盗賊団の拠点は把握しておりますので、ご安心ください」


 うん。お嬢様は頼りにならなさそうだ。

 というか俺達の戦いを見物しにきただけなんじゃないだろうか。

 ブラッドリーさんが言う通り、ヘレンさんが道案内なんだろう。たぶん。


 俺達は衛兵の皆さんにも挨拶をしてから、ブラッドリーさんに見送られ、盗賊団の討伐に出発した。


    ◇    ◇    ◇


 俺達は用意された3台の馬車に乗り込み、盗賊団のアジトを目指して進み続ける。


 シャーロットの希望で、俺・唯・シャーロット・ヘレンさんが同じ馬車になった。


 シャーロットは俺達のことを『レベル99の姉妹』と言っていたので、俺達のことを詳しく知りたいのだろう。道中いろいろと質問をしてきた。

 さすがに地球のことは話せないので、出身地について誤魔化すのに苦労した。


 そして辺りが薄暗くなってきた頃、ヘレンさんが周囲を見渡しながら言った。


「そろそろ日が暮れますし、この辺りで野営した方が良さそうですね」


 確かに、暗闇の中を進み続けるのは危険だろう。

 盗賊団のアジトまであと3時間程で着くそうだけど、夜の襲撃はこっちが不利だろうしな。


 俺は一行に提案した。


「ヘレンさんの言う通り、この辺りで野営しましょう。あと数時間で盗賊団のアジトに到着しそうですが、夜襲は避けた方がいいと思いますので」


 シャーロットも同意する。


「ええ、その方が賢明ですわ。いくらアキラとユイが強くても、暗闇の中では何が起きるか分かりませんものね」


「じゃあ決まりだね。夜が明けたら盗賊団をやっつけよう!」


 唯が元気よく言った。


 こうして一行は、馬車を止めて野営の準備を始めた。

 ん? 野営の準備? 何すればいいんだろ?


「ヘレンさん。俺達、実は野営をしたことがないんですが、どうすればいいんでしょうか?」


「……そういえば、夜は『マイホーム』で過ごしていると言っていましたね」


「はい。こんな感じです」


 俺と唯は少し離れた場所に移動し、手を繋いで『マイホーム』と唱える。

 すると、目の前の誰もいないはずの空間に、突如としてドアが出現した。


「……!?」


 その光景を見たヘレンさんが驚いて固まっている。

 シャーロットも目を丸くしてドアを見つめていた。

 やはり話には聞いていても、実物を見るとインパクトが大きいのだろう。


「いつも夜はこの中で過ごしているんです。ドアの中は普通の家みたいになってるんですよ」


 俺がそう説明すると、シャーロットの目がキラキラし始めた。


「凄いですわ! 私も入ってみてもいいかしら!」


 と言いつつこちらに向かってくる。

 が、何かにぶつかったように突然立ち止まった。


「きゃっ! な、何なのですのこれは!?」


「シャーロット、何してんの?」


「壁よ、ここに透明な壁がありますわ!」


 いや、俺にはシャーロットがパントマイムをしているようにしか見えないんだが。


 俺と唯はシャーロットが言う見えない壁に手を伸ばすが、普通に通り抜ける。

 そりゃそうだ。


「いや、透明な壁なんて無いけど?」


「絶対にありますわ! ヘレンもやってみて!」


 シャーロットに促されて、ヘレンさんも手を伸ばす。

 あ、パントマイムが始まった。

 本当に壁があるっぽい。


「お兄ちゃん。私達だけしか通れないバリアみたいなものがあるのかな?」


「そうかもしれないな。衛兵の皆さーん。ちょっといいですか?」


 衛兵の皆さんにも協力してもらったところ、俺達だけしか通れないバリアのようなものが、マイホームの扉の半径1メートルぐらいに張られていることが分かった。

 俺達以外がマイホームに近づけないように、神様がサービスしてくれたんだろう。たぶん。


 こうして結局、俺達はいつも通りマイホームに泊り、他の人達は普通に野宿することになった。

 ちょっとだけドタバタしたけど、明日はいよいよ盗賊団討伐だ。

 今日はゆっくり休むとしよう。

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