第8話 ゴブリンとの戦い

 3匹のゴブリン達は、俺達に気付いていないようだった。

 醜い顔をしかめながら、のろのろと歩いている。


「お兄ちゃん、あれがゴブリンだよね」


 唯が小声で言う。


「ああ、間違いない。いきなり強敵と当たらなくてよかったな」


「私から魔法で攻撃していい?」


「じゃあ唯が魔法で1匹倒して。残りの2匹は俺が剣で倒すよ」


「うん。わかった」


 唯が杖を構え、ゴブリンに狙いを定める。


「アイスアロー!」


 唯の放った氷の矢がゴブリンの頭部を貫く。

 さすが唯、魔法の腕前が順調に上がってるな。


 残る2匹のゴブリンが、仲間が倒れたことに気付き、こちらに向かって走り出した。


 俺は剣を構え、一気に2匹のゴブリンに接近すると、素早く斬りつけた。

 あっけないほど簡単に、ゴブリンは両断されて倒れた。


「お兄ちゃん、かっこいい!」


 駆け寄ってきた唯が、目を輝かせて言う。


「唯の魔法も凄かったぞ。初ゴブリンは完勝だったな。でも次もこう簡単に勝てるかは分からないから、油断はしないようにしよう」


「うん。わかった」


 さて、これで目的であるゴブリン討伐は完了したわけだけど、討伐を証明するためにはゴブリンの魔石を持ち帰る必要がある。


 俺達は倒れたゴブリン達を見下ろした。

 でもゴブリンの死骸を解体するのは、正直気が進まない。


「……お兄ちゃん、ゴブリンから魔石を取り出すの、ちょっと気持ち悪くない?」


 唯が渋い顔で言った。やっぱり唯も同じことを思ったようだ。


「そうだな。グロい解体はできれば避けたいよな。」


「あ、そうだ! 私、良いこと思いついたよ」


「良いこと?」


「ほら、ゴブリンを丸ごと燃やしちゃえばいいんだよ。そうしたら魔石だけ残るでしょ?」


「いいアイデアだけど、ゴブリンを燃やすついでに山火事になったりしないか?」


「あっ、そっか! じゃあ私、フリーズの魔法で周りを凍らせてから、ファイアの魔法を使うね」


 唯は杖を振るって、ゴブリンの周囲の草木をカチンコチンに凍らせた。

 これで山火事は防止できそうだ。


「よし、じゃあ行くよ。ファイア!」


 唯の杖から火炎放射器のように激しい炎が放たれ、あっという間にゴブリンの死骸が燃え上がった。

 魔法の火力はすさまじく、ゴブリンはみるみる黒焦げになっていく。


「何かゴブリンを火葬してるみたいだな」


「変なこと言ってないで、魔石を取りだそうよ」


 灰になるまで焼き尽くしたおかげで、血生臭い解体をせずに魔石を取り出すことが出来た。


 魔石を回収した後、俺達は採取を中断していたブライアリーフを採取した。


「これで今日の依頼は完了だね。日も暮れてきたし、今日はこの辺で一泊しよっか」


「そうだな。じゃあマイホームのスキルを使おう」


 唯と手を繋いでマイホームを呼び出す。

 目の前に現れたドアを開けると、いつもの快適な空間が広がっていた。

 野宿しなくていいのは、すごく助かる。


 その夜、俺達は暖かい食事を楽しんだ後、お風呂に入り、柔らかなベッドで静かに眠りについた。

 冒険者としての初仕事を終え、心地よい疲れが全身を包んでいた。


    ◇    ◇    ◇


 次の日、俺達はエルムデールの街に戻ってきた。

 ゴブリンを倒して得た魔石と、採取したブライアリーフは、俺達の初めての冒険の成果だ。


「お兄ちゃん、冒険者ギルドに行こうよ!」


 唯が元気よく言いながら俺の手を引く。


「うん。行こうか」


 俺は唯の手をしっかり握り返しながら、冒険者ギルドへと向かった。


 冒険者ギルドに到着すると、いつものように受付のお姉さんが微笑んで迎えてくれた。


「おかえりなさい、アキラくんとユイちゃん。依頼は無事に済んだみたいね


「はい、何とかやり遂げることが出来ました。これ、ゴブリンの魔石とブライアリーフです」


 俺はリュックから魔石と草を取り出して、カウンターに並べた。


「数を確認するわね。ゴブリンの魔石が3つに、ブライアリーフが10束……」


 お姉さんが手早く確認していく。


「はい、間違いなさそうね。報酬は、ゴブリンの魔石が1つ銀貨5枚だから、3つで小金貨1枚と銀貨5枚。ブライアリーフは1束で銅貨1枚だから、10束で銀貨1枚ね」


 合わせて小金貨1枚と銀貨6枚。日本円にして16万円くらいか。

 命懸けの仕事だけあって、なかなか悪くない報酬額だ。


 でも俺達は2人パーティーだからいいけど、5人パーティーとかでこの報酬だと、結構ギリギリの生活になるかもしれないな。


 報酬を受け取った後、俺達は冒険者ギルドの2階に上がり、再びステータスを確認することにした。

 魔法や剣のスキル、取得できてたらいいな。


 石板(ステータスストーンと言うらしい)に手をかざすと、俺のステータスが表示された。

 レベルは相変わらず99。HPやMP、攻撃力などのステータスに変化はない。

 肝心のスキル欄には……


「お兄ちゃん、スキルは何も増えてないね」


 唯が覗き込んできて言う。


 俺のスキル欄には、前回と同じく『マイホーム(-)』と『棍棒術(1)』の2つしか表示されていない。


「残念。まぁ1回戦ったぐらいじゃスキルは生えてこないか」


「そりゃそうだよね。じゃあ、唯も見てみるね」


 続いて唯も石板に手をかざすが、唯のスキル欄にも変化は見られなかった。

 練習でガンガン魔法を撃ってたから、スキルが取れてるかもと思ったんだけどな。


「仕方ないか。地道にスキル習得を目指すとしよう」


「うん。そうだね」


 こうして冒険者ギルドでの用事を済ませた俺達は、ウサギ亭に向かった。


    ◇    ◇    ◇


「いらっしゃい。今日もまた泊まりかい?」


 玄関先でウサギ亭のおばちゃんが声をかけてくる。


「はい。よろしくお願いします」


「じゃあ、昨日と同じ部屋にするよ。夕飯の時間になったら降りておいで」


「わかりました。ありがとうございます」


 鍵を受け取り、俺達は2階の客室に向かった。

 客室に入ると鍵をかけ、すぐにマイホームのスキルを使う。


 俺達はお風呂に入って汗を流し、寝室のベッドに腰掛けた。

 やっぱりここが一番落ち着くな……


「お兄ちゃん、初めての依頼、ちゃんとこなせたね」


「本当だな。しかし唯の魔法すごかったな。スキルレベルを上げたら、最強の魔法使いになれそうだな」


「お兄ちゃんの剣もすごかったよ。きっと最強の剣士になれるよ」


「そうなったら、俺達は世界最強のコンビだな!」


 こんな掛け合いをしながら、寝室でまったりくつろぐ。

 異世界に来てまだ日が浅いけど、この世界での暮らしにもだいぶ慣れてきた気がする。


「ねえお兄ちゃん、唯、結構頑張ったと思うの。ご褒美が欲しいな……」


 唯が甘えるような声を出す。

 俺は唯の頭をナデナデしながら応える。


「うんうん。唯は頑張ったぞ。どんなご褒美がいい?」


「唯はね、お兄ちゃんにキスして欲しいの」


 俺は隣に座る唯のほっぺたにちゅっとキスをした。

 柔らかくて甘酸っぱい香りがする。


「ほっぺのちゅーもいいけど、唯はお口にちゅーしてほしいな~」


「唯はまだ中学生だからな。お口のちゅーは高校生になってからな」


「ぶー。この世界なら中学生じゃないのにー」


 唯が頬を膨らませてすねる。

 可愛い。


「その代わり、明日はデートをしよう。異世界で初デートだ」


「本当に!? やったぁ! 楽しみだな」


 エルムデールの街に来て、まだ冒険者ギルドと宿屋にしか来てないし、1日のんびりと街を巡るのも良いだろう。


 その後、俺達は明日のデートの計画などを話しながら、マイホームでのんびりと過ごした。

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