第7話 初めての冒険

 俺はマイホームのベッドで目を覚ました。


 隣では唯がすやすやと眠っている。

 マイホームには窓が無いので外の様子は分からないけど、時計を見るともう朝の7時だ。


「唯、起きて、もう朝だよ」


「んー、お兄ちゃん、おはよう」


 唯は目をこすりながら起き上がった。

 俺達はシャワーに入り、身支度を整えると、ウサギ亭の食堂に降りて朝食を取ることにした。


 朝食はホーンラビットのミートローフとスープとパン。

 昨夜のシチュー同様、上手く調理されていて美味しい。

 異世界の料理もなかなかいけるな。


 朝食を取りながら、唯と今後の方針について話し合う。


「唯、冒険者ギルドでステータスを見たとき、俺にだけスキル欄に『棍棒術(1)』って出てたの覚えてるか?」


「うん。覚えてるよ。唯のステータスは『マイホーム(-)』だけだったよね」


「この違いって、俺がホーンラビットをバールでたくさん倒してたからだと思うんだよな」


「うん。そうだよね。ってことは、唯も魔法をたくさん使えば、お兄ちゃんみたいにスキルが身に着くのかな?」


「たぶんそうだと思う。で、俺達はレベル99だけど、スキルレベルはゼロ。フィジカルは最強だけど、技術は素人のボクサーみたいなもんだと思う」


「技術が素人だと、もし魔王と戦うことになったら負けちゃうかもしれないね」


「そうだな。だから冒険者ギルドで魔物討伐の依頼を受けながら、スキルレベルの向上を目指すのがいいと思う」


「うん。そうだね。ついでにお金も貯まりそうだしね」


 まだ魔王と戦うと決めているわけじゃないけど、一応神様に『できれば魔王を倒して欲しい』と言われているわけだし、戦う準備だけはしておきたい。

 そのためにも、スキルレベルを上げることは必要だろう。


 方針の定まった俺達は、朝食を済ませると、二人で冒険者ギルドに向かった。


 冒険者ギルドに着いた俺達は、さっそく掲示板に張られた依頼を確認する。


「お兄ちゃん。依頼がいっぱいあるね」


「うん。でもどの依頼がいいのかよく分からないな……」


 依頼はランクごとに分かれて掲示されているものの、素人の俺達が見てもどの依頼がいいのかよく分からない。

 俺達は自力で選ぶのを諦め、受付のお姉さんに相談することにした。


「すみません。討伐依頼を受けたいのですが、初めてでよく分からなくて。初心者に丁度いい依頼ってどのあたりになりますでしょうか?」


「あなたたちは、噂のアキラくんにユイちゃんね。すごく強いって聞いてるけど、やっぱり最初は簡単な依頼から始めるのがいいんじゃないかしら。これなんてどう?」


 お姉さんは、常設依頼の『ゴブリン駆除』『薬草採取』の依頼を見せてくれた。


「常設依頼だから期限が無いし、ゴブリン駆除のついでに薬草採取もできるから、丁度いいと思うわよ」


「確かに期限が無いのはありがたいですね。この依頼にしようと思います。ただゴブリンや薬草の知識が無いのですが、資料とかありますでしょうか?」


「2階に資料室があるから、そこで事前の勉強するといいわ」


「分かりました。ありがとうございます」


 俺達はギルド2階の資料室に行って、ゴブリンと薬草について調べることにした。

 ゴブリンにはどんな特徴があって、どんな戦い方をするのか知っておきたい。


 資料室には古びた本や巻物が所狭しと並んでおり、その中にはこの世界の魔物についての情報が書かれた本もあった。

 ゴブリンのページを開くと、緑色の皮膚に尖った耳を持つ、醜い姿の魔物の絵が描かれていた。


「ゴブリンは臆病な性質で、単独では弱いけど集団で襲ってくる厄介なモンスターか…… 気を付けないとな」


「お兄ちゃんと一緒なら、きっと大丈夫だよ!」


 まぁ魔王に勝てるようレベル99にしてもらった訳だから、ゴブリンに敗れることは無いと思うけど、まだ俺達はホーンラビットとしか戦ったことが無い素人だ。

 最初のゴブリン戦は、慎重にいこう。


 ゴブリンについての情報を頭に叩き込んだ後、薬草について調べることにした。


 本棚から薬草について書かれた本を取り出し、ページを開くと、様々な植物が克明に描かれていた。

 回復薬の材料になるハーブから、毒になる草まで色々ある。


 俺達は薬草についての情報もしっかり読み込んだ後、周辺の地理や魔法の使い方など、必要そうな本を次々を読んでいった。


 こうして、資料室での情報収集に一日を費やした俺達。

 ゴブリンと薬草に加え、この世界の常識についてもある程度の知識をつけることができた。


 そして翌朝、冒険者としての初めての依頼をこなすため、俺達は街の東側にある山岳地帯に向けて歩き出した。


    ◇    ◇    ◇


 街を出発してからしばらく、俺達は東の草原地帯を歩いていた。

 青空の下、広がる緑の絨毯のような草原は、美しい光景だった。


「お兄ちゃん。魔法使えるか練習してもいい? ここなら爆発とかしても大丈夫そうだし」


 俺は周囲を見渡す。うん。周囲に人はいない。

 草原だから壊れそうな物も無いし、練習に丁度良さそうだ。


「そうだな、このへんで練習しとくか」


「うん!」


 冒険者ギルドの講習会では、初心者でも魔法杖があれば使えるという、基礎魔法を教えてもらった。

 すぐ試してみたかったけど、魔力が大きい俺達が魔法を使ったらどうなるか分からなかったので、街の中では試せなかったのだ。


「じゃあ、『ファイアアロー』から行くね」


「なるべく威力を抑えて、上に向けて撃つんだぞ」


「はーい」


 唯は、ギルドでレンタルした魔法杖を空に向けた。


「えーと、確かこうやって…… ファイアアロー!」


 唯の杖から激しい炎の矢が放たれ、凄まじい威力で空高く飛んでいき、遠くの雲に命中した。

 ちょっと激しすぎるので、『アロー』って感じじゃ無い。


「唯、まだ威力が強すぎ。もっと威力を抑えてもう一回やってみて」


「うん。やってみる」


 もう一度、唯が魔法杖を構え、「ファイアアロー」と唱える。

 今度は、杖から細い炎の矢が空に向けて放たれ、雲まで届くことなく途中で消滅した。


「お兄ちゃん。今度はいい感じだよね!」


「うん。この調子でどんどん行こう」


 コツを掴んだ唯は、アイスアロー、エアショットなどの攻撃魔法を成功させ、回復魔法のヒールも成功させたが、能力強化など補助魔法は使えなかった。

 魔法には相性があるそうなので、唯は補助魔法の相性が悪いということなのだろう。


「俺も魔法を使ってみたい!」


 唯から魔法杖を借りて、俺も魔法を使ってみる。

 が、どの魔法も全く発動しなかった……


「お兄ちゃんはきっと、戦士タイプなんだよ」


「そうなんだろうけど、俺も魔法使ってみたかったな……」


 魔法ってロマンがあるよね。

 使ってみたかった。

 でも才能が無いんじゃしょうがないか。


 気持ちを切り替えた俺は、マイホームで早めの昼食を取り、山に向かって歩き出した。

 道中、唯はさらに魔法の練習を続け、俺はその様子を見守りながら進んだ。


    ◇    ◇    ◇


 山に到着した俺達は、さっそく薬草採取に取り掛かる。

 が、中々お目当ての薬草が見つからない。


「お兄ちゃん、この辺りには薬草が生えていないのかな……」


「なかなか見つからないな。まぁマイホームがあればどこにでも泊まれるし、のんびり探そう」


「そうだね。薬草さ~ん。どこにいますか~」


 謎の掛け声をあげる唯と一緒に、草むらを掻き分けて奥へと進んでいく。

 と、


「あ! これ、もしかして……」


 唯がトゲのある草を指さして言う。


「お兄ちゃん、これ図鑑に載ってたブライアリーフじゃない?」


「本当だ。たしか葉っぱの部分が毒消しに使える薬草だな。はー。やっと見つかったか」


「簡単に見つからないから価値があるんだよ。きっと」


「それもそうか。じゃあ、見つかった分はしっかり採取していこう」


「うん!」


 俺達はブライアリーフを採取しようと身をかがめた。


 その時だった。

 背後から、かすかな物音が聞こえてきたのだ。


「……お兄ちゃん、今の音」


「ああ、俺も今、何かの気配を感じた」


 俺は唯に目配せをして、そっと身を翻した。

 音のした方角を見ると、3匹のゴブリンがのそのそと歩いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る