第6話 ブラッドリー、考えるのを諦める

 ギルドマスターのブラッドリーは、執務室の窓から、エルムデールの街並みを眺めていた。

 先程、アキラとユイがこの部屋から出て行ったばかりだ。


 彼は先程の模擬戦のことを思い返していた。


 アキラの動きはあまりにも早く、何もできずに敗れてしまった。


 ユイにはこちらから攻撃を仕掛けたものの、全て簡単に受け止められてしまった。

 攻撃を受けるユイの木剣は微動だにせず、まるで固い岩山にでも切りつけたような感触だった。


 アキラとユイが圧倒的強者なのは間違いなく、ステータスストーンに表示されたレベル99というのも本当かもしれない。

 ただ、レベル99なんて存在が本当にありえるのだろうか?


「1000年前に当時の魔王を倒した伝説の勇者でさえ、レベル50だったって話だ。それを考えると、レベル99ってのは、一体どれほどの力を持っているんだ?」


 もしかしたら、この国、グレイソーンズ王国の全軍と戦っても、2人だけで圧勝してしまうかもしれない。


「考えても分からん! こういうことは偉い奴らに任せる!」


 ブラッドリーはもともと肉体派であり、頭脳労働は苦手なのであった。

 考えるのは諦め、偉い人達に対処を丸投げすることにした。


 彼はデスクに向かい、手紙を書き始めた。

 冒険者ギルドの本部長と、エルムデールの領主宛てに、今日の出来事を詳細に記す。

 二人の実力、模擬戦での結果、そして彼らが持つ潜在的な脅威についても包み隠さず書き、最後に対処方法の指示を仰いだ。


「これでいいだろう」


 手紙を書き終えると、彼は丁寧にそれを封筒に入れ、封蝋で封をした。

 あとは、上層部がこれをどう判断するかに委ねるしかない。

 自分の役目はここまでだ。


 ドアを開けて廊下に出ると、事務員のアンナが慌てて駆け寄って来た。


「ギルドマスター、あの2人の件はどうなりましたか?」


「ああ、Cランク冒険者として入会させることにした。あと、本部長と領主様に手紙を送ることにした。明日の朝一で頼む」


 ブラッドリーは、封筒をアンナに手渡した。


「かしこまりました。必ず届けます」


 アンナが恭しく頷くのを見届けると、ブラッドリーは再び執務室に戻った。


 こうしてアキラとユイの名は、本人たちの知らぬ間に広がっていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る