第4話 ステータスオープン!(とは言わない)
翌日から俺達は6匹ほど角ウサギを倒しつつ、川沿いにのんびりと歩き続けた。
歩き続けること5日目の朝、ついに森の端に到着し、草原が広がる平地に出ることができた。
前方に、城壁に囲まれた街が見える。
「わぁ、お兄ちゃん見て! 街だよ!」
唯は指をさして興奮気味に言った。
初めての街。俺も楽しみだ。
異世界人って、どんな人かな?
俺たちは草原を駆け抜け、城門へと向かった。
みんな自由に出入りしているようなので、俺達も他の人に続いて街に入る。
街の中は石畳の道が整備され、両脇に商店が立ち並んでいた。
露店の商人は目立つ色の服に身を包み、大声で商品を宣伝している。
街を歩く人々は、大体はヨーロッパ系の普通の人間のように見えるけど、耳の長いエルフや、背の低いドワーフのような亜人種の姿もチラホラと見られる。
まさに異世界ならではの光景だ。
街の規模は結構大きく、数万人くらいの住民は住んでいそうだ。
機械などは何もなく、少なくとも産業革命は起きていないように見える。
「ウサギの宝石と角を売りたいところだけど、異世界にも質屋さんってあるかな?」
「結構大きい街だし、あるんじゃないかな。そのへんの人に聞いてみようよ」
「そうだな」
道を尋ねるならお巡りさん。
ということで、俺は衛兵っぽい武装したおじさんに声をかけた。
「すみません。このウサギの宝石と角を売りたいんですけど、この辺りで買取をしてくれるお店ってありますでしょうか?」
「なんだお前ら。田舎から出てきたのか」
「はい。今日この街についたところでして」
「しょうがないな。ほら、向こうに三階建ての大きな建物があるだろ。あれが冒険者ギルドだ。ホーンラビットの魔石と角なら、あそこで買い取ってもらえ」
どうやらあのウサギは『ホーンラビット』で、この石は『魔石』というらしい。
「分かりました。ありがとうございます」
俺達は衛兵さんにお礼を言って、教えてもらった建物に向かって歩き出した。
「お兄ちゃん、普通に日本語が通じたね」
「そうだな。神様にもらった『異世界通訳』のスキルが、ちゃんと働いてくれてよかった」
もし言葉が通じなかったら、この世界で暮らすのはかなり大変だっただろう。
『異世界通訳』のスキルがあって、本当に良かった。
しばらく歩くと、冒険者ギルドの大きな建物に到着した。
建物の前には「冒険者ギルド エルムデール支部」と書かれた看板が掲げられている。
どうやらこの街は『エルムデール』というらしい。
建物の中に入ると、左半分はレストランになっていて、右半分には3つの受付が並んでいた。
俺は受付のお姉さんに話しかける。
「ホーンラビットの角と魔石を売りたいんですけど、どうすれば良いでしょうか?」
「ごめんね。買取は会員からじゃないとできないの。先に冒険者ギルドに入会してもらえる?」
会員制でしたか。なら入会するしかないな。
入会金とか取られないといいけど……
「どうすれば入会できますか?」
「毎月1回、冒険者ギルド主催の講習会をしてるから、その講習会に参加して、簡単なテストに合格すれば会員になれるわよ」
「講習会はいつありますか? 無料で受けられますか?」
「次の講習会は10日後ね。もちろん無料で受けられるわよ」
なるほど。
会員を使って儲けるような仕組みがあるんだろう。
俺達は少し考えた後、講習会に参加することにした。
「では講習会に申し込みます。どうすれば良いでしょうか?」
「私が受け付けるから、名前を教えて」
「はい。私が鈴木明、こちらが鈴木唯です」
「スズキアキラとスズキユイ、変わった名前ね。それじゃ10日後の1の鐘の頃に来て頂戴」
「1の鐘って、いつ鳴るんですか?」
「今の時期なら、日の出のあと1時間くらいしてから鳴るわね」
「わかりました、ありがとうございます」
俺達は受付のお姉さんに礼を言って、冒険者ギルドの建物を出た。
こうして俺たちは無事講習会の予約を済ませ、再び森に戻ることにした。
宿に泊まるお金がないため、10日後に再度街を訪れることにしたのだ。
森に戻る道中、俺たちは次の行動について話し合った。
「唯、10日間何しようか」
「角と魔石が売れるらしいから、狩りしながら森の散策でもしてようよ」
「そうだな。そうしよっか」
俺達は街を出て、再び森に向けて歩き出した。
◇ ◇ ◇
それから10日間、俺達は森の中でのんびりホーンラビット狩りをしながら過ごした後、再びエルムデールの冒険者ギルドを訪れた。
講習会を受講する人は、俺達を含めて8名のようだ。
みな中学生から高校生くらいに見えるので、俺達だけが飛びぬけて若いということは無いようだ。
(まぁ、服装が異世界らしくない学生服なので、目立ってはいると思うけど)
講習会は全て座学で、冒険者の基礎と、街の常識やマナーについて教えてくれた。
講師によると、冒険者というのは領主や市民などからの依頼をこなす『何でも屋』のようなものらしい。
魔物を討伐したり、商隊を護衛したり、薬草を採取したり、建築の肉体労働をしたり、農作業をしたり……
本当に何でもありの仕事のようだ。
また、冒険者にはAからEまでのランクがあり、依頼によっては『Cランク以上』といったランクの指定があるそうだ。
ランクが高いほど収入も多くなるので、冒険者は高ランクを目指すことになるけど、大体の人はCランクで引退するらしい。
Bランクはエリート、Aランクは超エリートということだ。
新規入会者は、もちろんEランクからのスタートとなる。
「お兄ちゃん。せっかくだからAランクを目指そうよ」
「Aランクなんかになったら、面倒なことに巻き込まれそうだな~ Bランクぐらいが丁度いいんじゃないか?」
「え~~ Aランクの方がいいよぉ~~」
なんてことを休憩中に話していたら、試験開始の時間となった。
試験はとても簡単だった。
知識を問う内容ではなく、倫理面のチェックをする適性検査のようなもので、問題は
『あなたは旅の途中で村を襲撃しようとしている盗賊団を発見しました。村には子供や老人も多く住んでいます。あなたはどうしますか?』
のような感じで、普通に答えれば合格する内容だった。
あまりにおかしな思想の人が入会しないようにするための試験なんだろう。
俺と唯も含め、講習会を受講した8人全員が合格となった。
続いて、事務員さんから装備のレンタルについて説明があった。
「中古の剣か中古の魔法杖のレンタルを希望する人はいますか? 価格は月に銀貨1枚。後払いでいいですよ」
通貨については、鉄貨10枚が銅貨1枚、銅貨10枚が銀貨1枚、銀貨10枚が小金貨1枚、小金貨10枚が金貨1枚の価値だと、講習会で教えてもらった。
宿屋の1泊が大体銀貨1枚くらいとのことなので、銀貨1枚の価値が日本円では1万円くらいになるんだろう。
剣や魔法杖の相場は分からないけど、冒険者ギルドのレンタルならボッタクリということはないはず。
唯と相談して、俺は中古の剣を、唯は中古の魔法杖をレンタルすることにした。
最後に、冒険者ギルドへの入会手続きが行われた。
「では最後にステータスの確認を行います。皆さんこちらの石板に手をかざして下さい」
思わず俺は、唯と顔を見合わせた。
俺達のステータスが表示されたら、ちょっとマズイような気がする。
でも今更講習会から抜け出すわけにもいかず、どうしようかと考えていると、あっという間に俺達の順番になってしまった。
「それではスズキアキラさん、手をかざして下さい」
「わかりました……」
仕方ないので石板に手をかざすと、
・レベル :99
・HP :1187
・MP :991
・攻撃力 :695
・魔力 :497
・物理防御力:688
・魔法防御力:490
・素早さ :501
・スキル :マイホーム(-)、棍棒術(1)
と表示された。
「えっ? レベル99!? そんな……」
事務員さんが信じられないという表情で呟いた。
固まっている事務員さんをよそに、続いて唯が石板に手をかざすと、
・レベル :99
・HP :990
・MP :1188
・攻撃力 :509
・魔力 :700
・物理防御力:495
・魔法防御力:693
・素早さ :685
・スキル :マイホーム(-)
と表示された。
おや? 唯には俺にあったスキルの『棍棒術(1)』が無いな。
いつも俺がホーンラビットをバールで倒していたから、俺にだけ『棍棒術(1)』が生えてきたということか?
つまり、スキルについてはゼロから育てないといけないということか。
将来、魔王と戦うのかどうかは分からないけど、念のためスキルは伸ばしておいた方が良さそうだ。
そんなことを考えていると、引きつった顔をした事務員さんが
「上司を呼んできます。少しお待ちください!」
と言い、飛び出して行った。
「お兄ちゃん。どうしようか」
「どうもならんな。素直にここで待っていよう」
仕方ないので、俺達は素直に座って待っていることにした。
何だか面倒なことになる予感がするけど、まぁなるようにしかならんよね……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます