第3話 異世界ピクニック
翌朝、俺たちは朝食と朝風呂を済ませ、マイホームを出て森の中に立っていた。
朝の光が木々の間から差し込み、爽やかな空気が広がっている。
「それじゃ、食料調達といきますか」
「お兄ちゃん、まずは水辺を探す方針でいいんだよね?」
昨日、俺達は夕食を取りながら話し合い、木の実や果物、魚などを探すことに決めていた。
そして、魚を獲るために、まずは水辺を探そうという方針を決めたのだ。
背の高い木々に阻まれて遠くを見渡すことができないため、俺は高い所から見下ろすことにした。
思い切ってその場でジャンプしてみると、驚いたことに高木をはるかに上回る高さまで飛び上がり、木々の上から森を見下ろすことができた。
「すご~い。レベル99だとジャンプ力もすごいね。私もやってみる!」
唯は興奮気味に言った。
唯もその場で思い切りジャンプすると、明よりもさらに10メートルほど高く飛び上がった。
だが、降りてくる際にスカートがまくれあがってしまい、可愛らしい下着がちらりと見えてしまった。
「きゃっ!」
唯は顔を真っ赤にしながら、慌ててスカートを押さえた。
「ごめん、ジャンプで偵察するのはお兄ちゃんに任せるね」
唯は恥ずかしそうに言った。
可愛い。
しかし唯の下着が俺以外の男に見られては大問題なので、
「少なくともスカートをはいているときはジャンプしない方がいいな」
と言っておいた。
そして、俺は再び大ジャンプを行い、高い所から森を見渡した。
すると、2本の川と、遠くに1つの街を見つけることができた。
地面に降り立つと、唯が俺に聞いてきた。
「お兄ちゃん、何か見つかった?」
「おう。川が2本あった。あと川沿いに大きめの町もあったぞ。かなり遠かったけど」
「じゃあ、食料を集めながら街の方に行こうよ。どっちの方向?」
俺は地面に落ちていた枝を拾い上げ、簡単な地図を描いた。
現在地、川の位置、そして町の位置を慎重に記していく。
「ねえ、お兄ちゃん。まずは川を目指して、川に着いたらそのまま川沿いを下っていくのはどうかな? それで街を目指すの」
唯が楽しげに提案した。
「そうだな、その作戦でいこうか」
「うん!」
作戦を固めた俺達は、まずは川を目指してゆっくり歩き始めた。
◇ ◇ ◇
森の中は静かで、鳥のさえずりが心地よい。
歩きながら、俺たちは周囲の様子を観察した。
「お兄ちゃん、これ見て!」
唯が指差した先には、小さな木の実がたくさんついている木があった。
よく見ると、それはヘーゼルナッツだった。
(異世界なので、ヘーゼルナッツに似た何かかもしれないけど)
「これ、パンのおかずにならないかな」
「そうだね。ガスコンロとフライパンがあったから、細かく砕いて炙ってから、パンの上にのせて食べたらいいかもね」
「よし、この木の実を集めよう」
俺は枝を折ってヘーゼルナッツを集め始めた。
唯も嬉しそうに手伝ってくれる。
丸い木の実にちょっと力を加えると、簡単に殻が割れて、白く輝くナッツの実が現れた。
レベル99の超握力があれば、くるみ割り器が無くても大丈夫のようだ。
俺達はリュックがいっぱいになるまで採取すると、再び川を目指して歩き始めた。
「ヘーゼルナッツって美味しいよね。これでしばらくはおやつに困らない!」
「そうだな。栄養価も高いらしいから、サバイバルにちょうどいいかもな」
俺たちは会話を楽しみながら森の中を進んだ。
背の高い木々に囲まれて、遠くを見ることはできないけど、少しずつ進むうちに水の音が聞こえてきた。
「お兄ちゃん、川の音がする!」
「うん、もう少しだ」
川の音を頼りに進むと、やがて清流が流れる美しい川にたどり着いた。
川幅10メートルくらいの、やや小さめの川だ。
「お兄ちゃん、お魚がいっぱいいるよ」
「本当だ。水が綺麗だから魚がよく見えるな」
「うん! 釣りしようよ、釣り!」
「といっても釣竿も釣糸も無いしな~ これで突いてみるか」
俺は近くに落ちていた枝を拾って、ナイフで先を尖らせる。
超身体能力がある今なら、この枝を銛にすればたぶん大丈夫だろう
川の中にある岩に上り、泳いでいる魚に銛を突くと、簡単に魚を獲ることができた。
「獲ったど~」
「お兄ちゃんすご~い。私も、私もやりたい!」
唯も岩の上にトントンとやってきて、俺のすぐ隣に立つ、
銛を受け取った唯は、「えいっ」と言いながら銛を突いて、やはり簡単に魚を獲った。
「やった~ 私も獲れたよ!」
「よし。この調子でどんどん魚を獲ろう」
「うん!」
俺達は岩場を移動しつつ、目についた魚を獲っていった。
あまり獲りすぎても食べきれない、5匹ほど獲った時点でマイホームに帰り、洗った魚を冷蔵庫と冷凍庫に入れた。
これでしばらくは新鮮な魚が食べられるな。
「お兄ちゃん、お腹すいたよ」
「そうだな。じゃあ、魚を焼いて昼食にしよう」
俺たちはマイホームのコンロのについていた魚焼きグリルを使って魚を焼くことにした。
美味しそうな香りが部屋中に広がり、腹の虫が鳴り始める。
焼き上がった魚は、皮がパリッとして香ばしく、身はしっとりと柔らかく、口に入れるとジューシーな旨味が広がった。
「美味しいね、お兄ちゃん!」
「本当に美味しいな。食パンのおかずにぴったりだ」
俺達はのんびり昼食を取った後、歯磨きをしてマイホームを出た。
(歯ブラシと歯磨き粉は、神様の謎パワーにより自動で補給されるようだ)
食料は十分集まったので、俺達はおしゃべりをしながら川下に向けて歩いていた。
そこで、俺達は初めての魔物に出会うことになった。
◇ ◇ ◇
森の中を歩いていると、突然唯が立ち止まった。
彼女の視線の先には、見慣れない生き物がいた。
体はウサギのようだが、額から鋭い角が生えている。
その生物は、明らかにただの動物ではなかった。
「お兄ちゃん、あれ何?」
「分からないけど、慎重に近づいてみよう」
俺たちはウサギに注意を払いながら近づいた。
唯は俺の後ろに隠れるようにしてついて来た。
異世界に来て間もない俺たちにとって、初めての未知の生物との遭遇だ。
突然、ウサギがこちらに気づき、鋭い声を上げて突撃してきた。
その速さは驚異的だったが、レベル99の動体視力のおかげか、俺にはとても緩慢に見えた。
「唯、後ろに下がって!」
俺はバールを構え、一瞬のタイミングで突撃してくる生物に向かって振り下ろした。
バールは正確にウサギの額に命中し、その場でウサギは倒れた。
「お兄ちゃん、すごい! 一撃だね!」
唯が歓声を上げる。
俺たちは互いにハイタッチを交わし、倒した生物を観察した。
「えらい好戦的なウサギだったな。やっぱり魔物だったのかな?」
「そうだね。でもだったら、私たちは魔物にも簡単に勝てるってことだよね」
嬉しそうに唯が笑って言う。
確かに、さっきのウサギからは全く脅威を感じなかった。
日本にいた時なら、普通のイノシシ1頭にも勝てなかったと思うので、やはりこれはレベル99の身体能力のおかげなんだろう。
でも魔物というからには、ドラゴンみたいなもっと強力な魔物もいるだろうから、まだまだ油断はできない。
「ウサギだし、たぶん一番弱いくらいの魔物なんじゃないかな。もっと強い魔物もいるだろうから、油断はしないようにしよう」
「うん。わかった」
「じゃあ、後はこのウサギだけど、どうしようか?」
「このまま放置はちょっともったいない気がするよね。食べちゃおうか?」
「でもどうやってお肉にするんだ?」
「たぶんお魚をさばくのと一緒だよ。やってみるね」
唯がリュックからナイフを取りだす。
料理が得意な唯なら、ウサギをさばくのも大丈夫か?
でも動物だから血が出るよな。
学校の制服が汚れるのはちょっと嫌だ。
「唯、汚れるかもしれないからジャージに着替えてからやろう」
「は~い」
俺達はジャージに着替えてから、ウサギを解体した。
ちょっとジャージに血が付いてしまったが、唯は手際よく、肉と、体内からアメジストのような紫色の石を取り出していた。
「お兄ちゃん、この紫色の石、何かな?」
「何だろうな? 街で売れるかもしれないから、取っておこう」
ウサギの角も売れるかもしれないので、ナイフで切り落として持って帰ることにした。
俺たちはマイホームに戻り、冷蔵庫と冷蔵庫に肉をしまった。
そして、夕食の準備に取り掛かった。
肉を焼いてみると、ジューシーで香ばしい香りが部屋中に広がった。
調味料がないのでただ焼いただけの料理になったけど、鶏肉に似た柔らかい触感で、食パンのおかずによく合っていた。
夕食を終えた後、俺たちは食器を片付け、キッチンを掃除した。
次に、洗濯機に汚れた衣服を放り込む。
「お兄ちゃん、洗濯しようよ。ジャージ汚れちゃったし」
「そうだな。洗濯は毎日することにしょう」
唯が洗濯機の操作パネルを確認し、洗剤を入れる。
俺も手伝いながら、洗濯物を洗濯機に入れた。
ボタンを押すと、洗濯機が動き出し、音を立てて洗濯が始まった。
洗濯が終わるまでの間、俺たちはリビングでくつろぎながら、異世界でのこれからの生活について話し合った。
洗濯が終わった後、俺たちは洗濯物を取り出し、乾燥機にかけた。
乾燥が終わると、唯が手際よく畳んでくれる。
「お兄ちゃん、ジャージの汚れが綺麗に落ちてるよ」
「さすが神様製の洗剤だな、使った分が勝手に補充されているし、意味が分からん」
「これだったら、戦闘とかで服が汚れても大丈夫そうだね」
汚れどころか、穴が空いたり破れたりしても神様の謎パワーで元に戻るかもしれないな。
わざと穴を空けて試したりはしないけど。
お風呂に入った後、俺たちはベッドに横たわった。
唯は昨日と同じく、俺にぴったりと寄り添ってくる。
その温もりが心地よく、俺は彼女の髪を優しく撫でた。
「お兄ちゃん、今日はサバイバルみたいで楽しかったね」
「そうだな、唯」
唯の無邪気な笑顔に、俺も自然と笑みがこぼれた。
「おやすみ、唯」
「おやすみ、お兄ちゃん」
俺たちはお互いに優しい言葉を交わし、静かに眠りについた。
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