第13話 トリがふたり(その数え方はおかしい)
「……つまり、あなたは私と同じように呪いで鳥に変えられたってことなの?」
わけのわからん大騒ぎに終止符を打ったのは、やっぱり一番賢いアリエッタだった。
「その通り。クロウの本体はわたしだ。こっちは
さらっとすごいこと言って、クロウがクロウの肩からバッサバッサとテーブルに降りる。
で、男の方は直立不動の姿勢になってしまった。
端整な顔立ちといい、肌の質感といい、人間にしか見えないけどな。
こうやって止まっていると、たしかに人形なんだろうなぁ。
「人間にしか見えないよう、ごく弱い幻惑魔法がかかっているからな。動いて喋っている姿からゴーレムを連想できるものなど、そうそういないさ」
なるほどなぁ。
しげしげと見つめている俺に、テーブルからクロウが解説してくれた。
「ごくごくたまに、ビリーのように違和感を覚えるやつもいるけどな」
苦笑の気配である。
俺が感じていた嘘っぽさの正体って、これだったのか。
「私はアリエッタ。サクラメント男爵夫人ですわ」
同じくテーブルにのったアヒルが優雅に一礼する。
「クロウ……本名はグレイスだ」
「俺の本名はウィリアム・サクラメント男爵な」
グレイスが名乗ったので、いちおうの流れで俺も自己紹介をしておく。
「まず、お前が貴族だったのにも驚きだが、つぎに鳥と結婚したことにも驚きだ」
誤解を招く言い方をするんじゃねえよ。
呪いで鳥になっていたなんて知らなかったんだよ。
「ちなみに私の年齢は十歳ですわ」
「うっわ……」
さらにアリエッタが余計なことを言い、俺はゴミを見るような目で見られました。
カラスに。
誤解を解くのが大変そうだなあ。
「それで、クロウにはうちの従士になってほしいんだ」
一時間ほどかけて事情を説明し、俺が小児愛好者でも動物性愛者でもないと納得してもらったあと、やっと本題に入った。
雇用条件とかもひっくるめてね。
「わたしは呪われた女だが、それでもなお雇うつもりなのか」
「クロウが逃亡中の凶悪犯とかだったら、そりゃあ考えるさ。でも女だとか呪われてるとかは採用条件にまったく関係しないかな」
下顎に右手を当て、少しだけ首をかしげる。
能力があり、人格的にも信頼できる人物だ。
些末なことにこだわって手放すのは惜しすぎる。
「アリエッタ姫のご主人は肝が太いな」
「警戒心がゼロなだけですわ」
トリたちが笑い合う。ひっどいいわれようである。
もうちょっと、手心を加えてくれても良いんですよ?
「どのみち呪いは解かないといけないし。そしたら一人でも二人でも手間は変わらないだろ」
俺はアリエッタとグレイスに笑ってみせた。
男爵領を発展させ、領民たちの生活を守るのも大事だけどさ。呪いを解くのも大切なことなのである。
こうして兵士五十名と従士一名がサクラメント男爵軍に加わった。
最低限の仕事はこなせたことになる。
「欲を言えば建築と土木の知識がある人材に、サクラメントに移り住んで欲しいところですわね」
「前から言っている街道の整備だな」
今後の方針だ。
もうひとつふたつ仕事ができないかなと思って、アリエッタと相談中である。
貧乏性っていわないでね。
王都までなんてほいほいこれないんだから。
「現状、サクラメントと村々を繋いでいる街道が狭すぎますから」
馬車がすれ違える道幅にするべき、というのをずっとアリエッタが主張していた。はじめてリトリバ村にいったときからね。
道幅が広くなると物量がスムーズになって、サクラメントを中心にした経済圏が形成されるんだそうだ。
村々で生産され、加工されたものがサクラメントに集まり、そこから他の領地へと売られていく。
そのための街道整備で、村と村を繋ぐ道もびしっとまっすぐに敷き直した方が良いらしい。
人が歩いているうちになんとなーく踏み固められたものじゃなくてね。
「サクラメントとリトリバの距離も、私の体感だと半分くらいにできると思いますわ」
「ホントかよ」
馬で二刻。歩いたら一日くらいの距離だ。
とくに不便だと感じたことはないんだけど、よそから嫁いできたアリエッタにはずいぶんと不便らしい。
半分ってのは大げさだけど、移動時間が短くなるってのはありがたいよね。
「伝手はないんだけど、商工会とかに顔を出してみようか」
「ですわね。期待薄ではありますが」
大都市のタイタニアから、ど田舎のサクラメントに移住したい物好きがいるだろうかって話だからね。
厳しいと思うよ。
かなり自虐っぽくなってしまうけど、田舎が都会に勝るものってひとつもないんだよね。
たとえば職業選択の幅。
農民の子は農民だし、鍛冶屋の子は鍛冶屋だし、狩人の子は狩人。これがサクラメントでは常識だけど、王都タイタニアではそうじゃない。
才能があって努力を惜しまなければって前提条件がつくけれど、農家の小倅が城勤めの兵士にもなれる。商人にもなれる。教師や医者にもなれる。
自分で決められるんだ。
まあ、そんな人生にまつわるような壮大な話をしなくたって、服のひとつ道具のひとつ食事のひとつをとったって都会は選べるんだよなー。
そんな場所から、なーんにもないサクラメントに移住してきてくれないか、なんて言ったって鼻で笑われるだけ。
田舎はつらいよね。
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