姫の留学
セリアラと少女姫が10才になった年。少女姫の、魔法学院への短期留学が決まった。
国王「姫よ、魔法学院に短期留学する気はあるか?」
少女姫「はい、お父さま。魔法学院で各国の歴史を学びたいです!」
国王「うむ。良い心がけだ」
少女姫「良かったですね、セリアラ!とても楽しみね」
国王「いや、セリアラは今回、同行せぬ」
少女姫・セリアラ「「え?」」
魔法学院は隣国にあり、世界最高峰の学院と言われている。
魔法学院は名前に『魔法』と付いているが、研究しているのは魔法だけではない。動植物や歴史など、研究対象は多岐にわたる。
留学期間は1か月。見聞を広めるために往復の時間も長めに1か月ずつとり、計3か月ほどの予定だ。
各国の王族や貴族の子弟が魔法学院で学ぶのはよくあることだ。
しかし今回の少女姫の留学はお忍びで行われることになった。
いつも少女姫と行動を共にしているセリアラだが、今回は同行しない。その理由は、セリアラの影武者としての試験の為である。
セリアラは少女姫の影武者も出来るよう育てられてきたが、その方面において、セリアラは他に類を見ない才能を発揮した。
少女姫の姿に変身する魔法を発現したのである。
通常の影武者は、せいぜい謁見の代役をする(謁見の対象者と距離があってほとんど話さないなら、それで事足りる)とか、戦いの場で囮を務める程度である。
しかし完全に少女姫の姿になることができ、日ごろから少女姫の言動もよく知っているセリアラは、それ以上のことも出来ると考えられた。
そこで、どこまで少女姫の代役が出来るかを試すことになったのである。
そういった事情のため、少女姫の留学とセリアラの影武者の件は、ごく限られた人間のみに共有された。
具体的には、当事者である少女姫・セリアラと、この計画を立案した国王・王妃、それに少女姫の護衛として同行する近衛隊長のアーキルである。
近衛隊副隊長のスカーレットには知らせておくべきではないかという意見も出たが、影武者に対して普段と違う言動をしてしまう可能性が考えられるので、知らされないことになった。
ただ、他の者からすれば居なくなったように見えるアーキルとセリアラには、居なくなる理由が必要だ。
その結果考え出されたのが、アーキルは特別な魔物討伐任務、セリアラは庶民の家に住み込んでその暮らしを体験し今後の姫の補佐に役立てるという名目であった。
・・・
そして、出発の日が来た。
まだ起き出す者も少ない早朝、人目の付かない場所にて見送りが行われた。
アーキル「ほんじゃ、行きますかね」
少女姫「それではお父さま、お母さま。行って参ります」
国王「うむ、しっかりと見聞を広めてくるがよい」
王妃「身体には気を付けるのですよ。鎧はきちんと持っていますね?」
少女姫「はい、お母さま」
少女姫は腕に嵌められた白銀の腕輪を見せた。
これは王家に伝わる魔法の鎧で、呪文を唱えると腕輪から鎧に変化するという貴重な物だった。
少女姫「お借りしたこの腕輪は、必ずお返しいたします」
王妃「ええ。待っていますよ」
セリアラ「姫様、無事なお帰りをお待ちしております」
少女姫「セリアラも、無理をしないでくださいね」
セリアラ「はい。姫様も…」
王妃「アーキルも、姫のことを頼みましたよ」
アーキル「まあ、給料分は働きますよ」
こうして少女姫とアーキルは旅立ち、セリアラの影武者としての試験が始まった。
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