セリアラの魔法(1)

人生の転機というものは色々あるだろうが、セリアラの場合は、魔法が使えるようになったことだろう。


セリアラ「姫様、早く早く~!」

少女姫「ちょ、ちょっと、おねえさま、何なんですか~?!」

セリアラは少女姫の手を引いて、王宮の廊下を早足で突き進んでいた。


侍女A「あら、珍しい」

侍女B「いつもなら、姫様がセリアラを引っ張ってるのに」

侍女C「今日は逆なのね」


セリアラは誰もいない物置部屋の中に少女姫と一緒に入った。


セリアラは足場に良さそうな箱をズズズ…と入り口の脇に押していき、その上に立って、それでも足りないので背伸びをして、魔力充填板に手を当てた。(魔力充填板は大人が押すための位置にあるので、子供には高いのだ)

魔力充填板に少し魔力を注ぎ込むと、天井にある明かりがつき、物置部屋が明るくなった。


そしてセリアラは物置部屋の入り口の扉に手を掛けた。

少し離れて付いてきていた少女姫付きの近衛兵と目が合ったが、ニコリと笑顔を向けて、そのまま扉を閉じる。

扉の鍵はかけないが、よほど悲鳴を上げたりしなければ、近衛兵は入って来ないだろう。


物置部屋は色々な物が置いてあって手狭だが、少女2人にとっては十分な広さがあった。そして他人が覗き込めるような窓も無く、秘密を守るには好都合だった。


少女姫「それで? どうしたんですか、おねえさま?」

セリアラ「うふふ…。実は、すごいことが出来るようになったんです! …見ててください、アルちゃん!」


セリアラは右手を上げて、目をつぶった。深く深呼吸する。

すると、掲げた右手から光が溢れ出した。

キラキラした粒のような光が零れ落ちて、セリアラの全身を光が覆ってゆく。


少女姫「?!」


セリアラの全身がひときわ強く輝き、光は収まった。


少女姫「…えぇっ!?」

セリアラを見て、少女姫は驚きの声を上げた。

セリアラの姿が、少女姫の姿に変わっていたのだ。

服はセリアラが着ていた物そのままだが、いつも鏡で見る自分の姿とそっくりだ。


少女姫姿のセリアラ「うふふ…!どうですか、アルちゃん?」

少女姫「…すごい! 声までわたしそっくりなんですね!」


少女姫姿のセリアラ「実はわたし、毎晩、こんな魔法が使えるようにならないかな…って思って試してたんです。そうしたら昨日、初めて変身できたんです…!」


セリアラに影武者の役割が期待されていることは、常日頃から言い聞かせられていたし、少女姫も知っていた。

セリアラはどうしたら良い影武者になれるかと考え、少女姫そっくりの姿に変身できればいいと思っていたのだ。


この世界の人間は魔法を使える者も多いが、ほとんどの人間は、その人が最も関心がある事柄に関する、最も向いている魔法がひとつだけ使えるようになる。

セリアラに発現した「少女姫の姿に変身する魔法」は、まさにセリアラが最も望んでいた魔法だったのである。


少女姫「これって、どれくらいの時間もつのかしら?」

少女姫姿のセリアラ「さあ、どうでしょう? 昨日使えるようになったばかりなので…」

少女姫「だったら、いろいろ試してみないといけないですね…。それまで、このことは2人だけの秘密にしましょうね!」

少女姫姿のセリアラ「はい、アルちゃん!」

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