近衛隊長謁見

少女姫が新しい近衛隊長――ドラゴンスレイヤーの男――と謁見する日がやってきた。

その男の名はアーキルという。

今や副隊長となったスカーレットは、アーキルのことを「ドラゴンスレイヤーと言われるだけあって、確かに強かったですよ」と評した。(腕試しのために戦ったのだ)


謁見の間で護衛の近衛隊員と侍女たちに守られながら、少女姫とセリアラはアーキルを待っていた。

そして、副隊長のスカーレットに先導されて、新しい隊長のアーキルが謁見の間に入ってきた。


少女姫は席を立って前に進み出た。

侍女「姫様?!」

慌てて侍女たちが制止しようとしたが、少女姫は目で抑えた。


アーキルの前までやってきた少女姫は、アーキルの顔を見上げた。

アーキルはサラム人で、体格のよいサラム人の中でもさらに巨漢だった。身長は少女姫やセリアラの倍以上あるように思えた。

しかし少女姫は臆せずアーキルに話しかけた。


少女姫「あなたが、新しい隊長さんですね」

アーキル「ああ、そうだ」

スカーレット「ちょっとアーキル、言葉には気を付けて!」

アーキル「ああ、すまん…。しかし、敬語なんか知らねえんだよなぁ」

スカーレット「まったくもう…」


少女姫「いいのです。…それでは問題です!あなたの護衛対象は、誰でしょうか?!」

セリアラ「?!」

アーキル「んー~??」


思ってもみなかった少女姫の言動にセリアラは狼狽し、アーキルは首をかしげた。


アーキルは目の前(足元)にいる少女と、謁見の間の正面の席の隣に立っておろおろしている少女(セリアラ)を交互に見た。

しばらくして、アーキルは目の前の少女に答えた。

アーキル「お前…いや、あんたか?」


少女姫「いいえ、違いまーす!」

少女姫は満面の笑顔を浮かべた。


セリアラ「え?!」

セリアラは混乱した。どう考えてもアーキルが正解だ。


アーキル「じゃあ、そっちがお姫様?」

アーキルはセリアラの方を見た。

セリアラ「…いいえ、違います…」

アーキル「あん?」


セリアラは申し訳なさそうに答え、そしてアーキルも混乱した。


少女姫は得意げに答を口にした。

少女姫「正解は、護衛対象は私たち2人です!」

アーキル・セリアラ「「はあ?」」

セリアラとアーキルは困惑した。


慌ててセリアラは弁明する。

セリアラ「あ、あの、姫様はそうおっしゃっていますが、護衛対象は姫様だけですから!」


少女姫「ダメですよ、おねえさまも守ってください!」

少女姫はアーキルに向かって訴えた。


アーキル「おねえさま? この国の姫は、一人じゃなかったのか?」

スカーレット「姫様はこの方ひとりだ。そちらの子は姫様の専属侍女だが、生まれた時から一緒に育てられているのだ」


スカーレットがアーキルに解説し、ようやくセリアラは安堵した。

セリアラ「はい、その通りです。私はセリアラといいます。よろしくお願いいたします」

セリアラは丁寧に頭を下げた。


アーキル「お、おう…」


それからセリアラは少女姫に向かって説教を始めた。

セリアラ「姫様、変なことを言わないでください…!」

少女姫「おねえさまも私にとって大事な人ですから、立派な護衛対象なんですよ!」

セリアラ「いいえ、いつも言っている通り、大事なのは姫様だけですから!」

スカーレット「その通りですよ、姫様」

少女姫「あ~!スカーレットまでそんなことを言うんですか?!」

セリアラ・スカーレット・侍女達・近衛隊員達「「当たり前です!」」

少女姫「え~!?」

セリアラ「だいたい、いつも姫様は…――」


…こうして場はぐだぐだになり、新しい隊長との謁見は終了したのだった…。


アーキル「大丈夫かこいつら…。まぁ堅苦しくないのはいいけどな」

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