姫の生活

カチャカチャ…

少女姫「うーん…」

カチャカチャ…カチャカチャ…

少女姫「あれ?」

セリアラ「姫様、頑張ってください!」

少女姫「はい、頑張ります!」


カチャカチャ…カチャカチャ……カチャッ!

少女姫「開きました!」

セリアラ「やった! 姫様、おめでとうございます!」


少女姫は、机の上に置かれている錠前を開けるために、鍵穴に2本の針金を差し込んでカチャカチャといじっていたのだが、その錠前がようやく開いたのだ。


この錠前は特殊な物で、透明度の高い板で作られており、中の様子が見えるようになっている。鍵開けの練習の為の錠前なのである。

この練習用の錠前は、差し込まれた鍵に応じる突起を片方の針金で押しつつ もう片方の針金でシリンダーを回転させるだけという、最も初歩的な鍵だ。

中が見えなければ手さぐりになるので素人では難しいかもしれないが、この練習用の錠前は中が見えるので分かりやすい。

セリアラはとっくに開けることが出来ていた。

しかし、少女姫は中の仕組みはすぐに理解したものの、上手く針金を扱えず、何時間もかけてようやく開けることが出来たのだった。


鍵開けの教師「おめでとうございます、姫様!」

鍵開けを教えている男は笑顔で少女姫を褒め称えたが、内心では溜息をついていた。

鍵開けの教師(やれやれ、この程度にこんなに時間がかかるとは…。俺、この先を教えられる自信ねーわorz)


・・・


少女姫の朝は意外と早い。

姫という仕事はなかなか多忙なのである。

身支度を整えて朝食を済ませたら、午前中は勉強、昼食をはさんで午後も勉強である。


勉強の内容は、まずは礼儀作法。

立ち方歩き方から言葉遣いまで、王族らしい振る舞いが自然に出るよう叩き込まれる。その甲斐あって、これは少女姫の普段の言葉遣いにも現れている。


それから重要なのは、国の地理と歴史。

各地方の特徴や領主・貴族の来歴と功績。覚えることは山ほどある。

国外のみならず、諸外国の知識も重要だ。特に領土拡大を狙って昔からよく侵攻してくる北方の国のことは。

もちろん地理や歴史だけでなく、算術や動植物・薬草毒草・魔物の基礎知識など、内容は多岐にわたる。


さらに高貴な女性としての教養。

社交ダンスや歌・楽器の演奏。茶の淹れ方・花の生け方・香の焚き方。etc


他には剣の訓練。

この王家では、王族の女性は刺突剣レイピアの扱いを覚えることになっていた。


そして変わり種として、鍵の開け方や縄の縛り方・抜け方、それに毒の扱い方。いわゆる盗賊の技術も学ばされた。

王族貴族ともなれば毒殺されることもあり得るので、それを回避するために毒の知識は必須だ。(念のために言うが、毒殺する為の知識ではない)

縄抜けや鍵開けは、もし何者かに捕まったとしても自力で脱出できるようにという、この王家特有の習慣であった。

しかしさすがに盗賊の技術の習得は王族らしくないので、このことは秘密にされていた。


・・・


少女姫は頭が良く、特に地理や歴史に興味を示し、覚えるのも早く正確であった。


一方で手先はあまり器用な方ではなく(ぶっちゃけ全般的に不器用である)、大抵のことは初歩的なレベルには達するものの、それ以上にはなかなか上達しなかった。

社交界で必須ともいえるダンスはなんとか見られるレベルになったし、歌もそれなり歌えるようになったものの、楽器の演奏は無理だった。

剣も型通りに振ることはなんとか出来るようになったものの、護身術としては役立ちそうに無かった。

盗賊の技術についても、知識の方はともかく、実習の方は推して知るべし…。


比較的上手になったのは、茶を淹れたり香を焚いたりすること。


セリアラ「はぁ~。アルちゃんの焚くお香は、癒されますね~」

少女姫「うふふ。ありがとうございます、おねえさま。これだけは得意なのです」

セリアラ「まぁ! これだけなんてことは無いですよ」

少女姫「他に何か思いつきます?」

セリアラ「えーっと…」

少女姫「ほら!そこで言いよどまないでくださいよぉ!」

セリアラ「あはは、ごめんなさーい!」

少女姫「もう! 見ててください、おねえさま。他のことももっと上手に出来るよう頑張りますから!」

セリアラ「それでこそアルちゃんですね。応援していますよ」


少女姫は苦手なものでも投げ出さず、真摯に取り組んだ。

その姿は好感が持てるものだった。

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