同期
久しぶりに同期にあったんですよ。駅前でばったりね。僕はさっさと転職しちゃったんだけど、彼はまだずっと働いててね。前は良く二人で遊びに行ってたから、久しぶりに飯でも行こうって。
それで昔よく行ってた居酒屋に入ったんです。そしたら彼、ちょっと雰囲気が変わってたんですよ。と言ってもいい方にね。
まずね、なんだか明るくなった。僕が辞めるとき、彼は仕事で疲弊していて。どうも上司がパワハラで有名だったようで、結構なしごきを受けていた。
今はね、兎に角よくしゃべる。会社の近況だとか、別の同期は今どこどこにいるだとか。それから最近趣味で山登りを始めたってことで一緒に行かないかって誘われたりもした。
まるで別人のような彼の姿にああ、よかったななんて思ってたんです。
ただ、途中からもっと変なところに気がついた。食欲が尋常じゃない。注文が届いたら取り分けもせず一人でたいらげる。食べるかしゃべるか、彼はそれをずっと繰り返している。そういえば少しふっくらしたかな。
「お前さ、元気になったのはよかったけどさ、食べ過ぎには気をつけろよ」
「ん?ああそうか、悪い悪い。最近体調が良いんだ。ついつい食べすぎちゃうぜ」
「そうかよ、まあいいけど。それにしても見違えるように元気になったなあ。俺が会社を辞める時、お前酷い顔してたぜ」
「ははは、そうだったな。でももう大丈夫だ。なんてったってさ、会社が火事になってさ、社長と俺の上司が巻き込まれちゃって。
あれはもう働けないと思うぜ。お陰で会社は暫く休みだ。給料貰いながら好きなことできてさ、毎日楽しいよ」
「え…マジでかよ?お前そんなこと一言も…」
しかし同期は真顔で答えている。とても嘘とは思えなかった。
ん、いや、こいつ駅であったときスーツ姿にカバン持ってたよな。会社で火事があって休みだなんて嘘だろ。でも、なんでそんな嘘つくんだよ。なんだか目の前の同期が気味悪く思えてきました。
同期とはその後少し飲んだあと解散しました。その後すぐ別の同期に連絡して、真偽を確認したところ。
やっぱり火事なんて起きてなかったのです。社長も、彼の同期ももちろん普通に働いてるそうです。そして、その同期は…もう半年まえから精神的な問題から休職中だと言うのです。
あれ、俺が会ったときの彼はなんだったんだ…そう思っていました。
その翌週のこと。その会社で火事が起きたそうです。会社に残っていた彼の上司と、社長が巻き込まれて重症をおったということです。
原因は分かっておらず火の不始末だろう、ということになったみたいです。
あいつ、このことを言っていたのか。
ああ、今週末あいつと山に行くんだった。
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