5・祝

「どういうことかしら」

「人はときに事実に基づかない考え方をしてしまうということです」

「言ってることがわからないわ」

「転んだ原因は石に躓いたからです。ところが、将門の首塚が出てきたらその原因が変わってしまいましたね。同じ出来事なのに」

 今回のこともそれと同じですと築垣は言った。

「夢を見たから落ちたのじゃない。鏡は紐が切れたから落ちたのだし、大貫さんは目眩がしたから落ちたんです。決して夢に見たからはずです。鏡が落ちた理由、大貫さんが落ちた理由を、、真由さんはどう考えていたと思いますか」

「ああ――」

 真由は視線をあげた。体から力が抜けたのか、ソファの背凭せもたれに背中から沈む。長めに息を吐く。

 それからぽつりとつぶやいた。

「そうか、そうね」

 天井を見あげる真由の顔からは、険しさが消えていた。

 築垣が言う。

「因果関係にないものを因果関係で結んでしまう誤りこそが呪いです。その意味では真由さんは呪いにかかっていたのでしょう」

「そうかもしれない。でも夢は――」

「夢の仕組みは、現状わかっていないことの方が多いです。僕にもわかりません。ですが、連日同じ夢を見る現象が、ないことはないと聴きます」

「そうなのね」

 そう答えた真由は、ひときわ大きな欠伸あくびをした。腕を目一杯伸ばし、目尻に涙を溜めつつ、なんだか眠くなってきちゃったと言った。

 築垣が訊く。

「眠れそうですか?」

 うん、と真由は頷いた。

「眠るわ。ありがとう築垣さん」

「力になれて何よりです」

 それから真由は築垣と、後日喫茶店に行くことを約束した。陸はまったく置いてけぼりを喰った心地だったが、真由が元に戻ったことは確かなようなので、あらためて築垣に礼を言い、同時に怒鳴ってしまったことをびた。

「とんでもないです。気にしないでください。私も不躾ぶしつけな質問をしてしまって申し訳ありませんでした」

 築垣はそう言い残して帰っていった。礼の意味も込めて、せめて食事だけでもして行かないかと陸は真由とともにすすめたが、築垣は丁寧な物腰でそれを辞退した。

 築垣が帰ると、真由はまた大欠伸をして、

「私、寝るね」

 と言った。

「うん、そうしろよ。どうせだから一週間くらいはずっとゆっくりしてろよな。食事も洗濯も掃除も、俺がやるから」

「できるの?」

 意地悪な質問をする真由に、出来るさと陸は胸を張って答えた。

「これでも一人暮らしは長かったんだからな」

「そうだったわね」

 くすりと真由は笑い、それから真剣な面持ちで

「ありがとう」

 と言った。

「ああ、だから俺に任せて、真由はゆっくり休めよな」

「うん、じゃあ」

 寝室に向かう真由の背中を、陸はほっとした思いで見送った。

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