6・陽

 それから二日もしないうちに、真由は家事に復帰した。

 大丈夫かと心配したものの、

「大丈夫よ、単なる寝不足なんだかから」

 と軽くあしらわれてしまった。強がっているのではなく、本当に健康になったことが伺えたので陸も心から安心することができた。

 またいつものように、二人はテーブルを挟んで共に朝食をった。いつものようにトーストだ。

 食べている最中、真由が言った。

「同じ夢を、ここ一週間くらい毎晩見るの」

 しかしその口調にも顔にも、前と違って悲壮ひそうな色はなかった。今は余裕が見られる。むしろ楽しんでいるようだ。

「へえ、どんな」

 乗り気で、陸もいた。

「あのね。ずうっと太陽が輝いているの」

「太陽?」

「そう。ただただ、青空に太陽が輝いてるの。それだけ」

「眠っている最中さいちゅうに太陽に出てこられちゃたまらないな」

「そうね。でも、睡眠はちゃんと摂れているわよ。今日もすっきりしているし」

「何よりだよ」

 トーストの最後の一口を、陸は頬張った。

 それからいつものように身支度を整え、玄関で靴を履いた。

 そのときだ。付けっぱなしにしていたテレビからだろうか。臨時ニュースを知らせるものと思われるチャイムが聞こえてきた。

 職場で話題に置いていかれないために確認しておきたかったが、残念ながらその余裕はなかった。ただ、ちらっと、太陽という言葉が聞こえたような気がした。

「行ってらっしゃい」

 明るく見送る真由に、

「行ってきます」

 と陸も明るく返した。

 玄関に背中を向ける。

 扉の閉まる音が聞こえた。

 空を見上げると、太陽が輝いていた。

 心做こころなしか、いつもより太陽が大きく見えた。




(了)

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朝日が沈むとき 泉小太郎 @toitoiho-

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