3・招

 転落事故というのは、どうやら大袈裟おおげさな言い回しだったようだと、後になって陸は知った。

 大貫は自転車で道路を走っている最中、目眩めまいがしたとかで、道路脇の田んぼに落ちただけだったらしい。

 それでも目眩となるとなんらかの病気があるかもしれないとのことで、一応は病院へ行ったという。結果はまだ出ていないが、大したことはないだろうと言われているという。

 取り敢えず無事だとわかって陸は安堵した。

 だが、真由の様子が激変した。

 鏡と大貫は共通して。それは自分が夢に見たせいだと加害者妄想に取り憑かれてしまったのだ。なかば半狂乱になって叫ぶ真由を落ち着かせるのに半日はかかった。それだけにとどまらず、今度は、もう眠らないと真由は言い出した。もし眠って夢に何かが出てきたら、今度はそれが、それで被害が出たらそれは自分のせいだからだと言う。

 陸は真由に対して、そんなことはない、偶然だ、科学的根拠はない、あったとしても真由に責任はないと一通りの説得しこころみみたものの一向に聞く耳を持ってもらえず、真由は本当に眠りをつようになった。

 それから三日が経つ。陸には眠らないなんてことはできなかったので眠ったし、真由もそれを責めはしなかった。だが、真由は確実にやつれていた。目が赤くれ、ほおけている。本当に一睡もしていないのか、それとも、陸が知らない間に少しは眠っているのか、ずっと見張ってるわけではないのでわからないが、睡眠が足りていないことは確実だった。

 さすがに放ってはおけないと思ったが説得が通じないからには手の打ちようがない。

 困った陸は考えた末に、かつての知人に連絡を取ることにした。自分の説得が通じなくても、自分以外の誰かの説得になら応じるかも知れないと思ったのだ。

 知り合いを何人か介して、ようやく築垣つきがきという女に連絡がついてた。

 築垣もまた、中学生時代の後輩だ。

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